『おかえりモネ』第23週「大人たちの決着」

第111回〈10月18日(月)放送 作:安達奈緒子、演出:梶原登城〉

『おかえりモネ』第111回 新次と耕治が長らく取りこぼしてきたことに向き合いはじめたとき、百音も…
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

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台風一過、降り注ぐようやく朝日のなか亮(永瀬廉)未知(蒔田彩珠)が手を取り合った。良かった良かった。……と思ったら「ごめん、だめだ。
まだけりついてない」と亮は手を離す。「もう少し時間くれる?」と亮に訊かれて、静かにうなづく未知。彼女は「新次さんのことだよね」と理解している。

【レビュー一覧】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第111回掲載中)

物語には緩急が必要で、どうなる?どうなる?とどんどん展開を切り替えていくことが飽きさせないテクニック。先週金曜日の終わりで、ようやく亮と未知がうまくいきそうとホッとしたところ、週明けに「ごめん、だめだ」で一回落とし、理由は新次と父子関係の決着をつけるからでまた安堵。話芸の達者な人のように緩急をつけて物語を単調にしない仕掛けを作り手は常に意識している。


ジェットコースターのような波の上げ下げに陽の余韻を作る作家と陰にもっていく作家がいて、個性とはいえ、陰の繰り返しはちょっとずつ心に溜まってダメージを与えていくことを作り手はもう少し意識してほしい。心の弱い人にとって、結果は悪くないとはいえ、緩急そのものがダメージにもなるのだ。

これは朝の放送だとか夜の放送だとかそういう問題ではないし、ましてやテーマが深刻であるからということとも関係はない。世界や物語に対しての心の持ち方である。世界に対してぐっと頭を持ち上げるか、うなだれるか。

そんなときに浅野忠信である。
彼が演じる新次はこの物語の中で最もしんどい境遇を背負っている。震災前は天才漁師として大活躍していたが、震災で船も家も妻も失って自暴自棄になり、9年経過しても未だ立ち直れていない。

だが、浅野忠信の芝居はそのネガな感情をきちんと生命力に循環させているように感じる。新次が震災で生きる気力を奪われながらそれでも生き続けている命の塊を浅野忠信から感じて、悲しいけれど観ている我々はなんらかの力をもらうことができるのだ。酒浸りでまったく立ち直ってない頃の怒りや哀しみや絶望にも浅野忠信には強さがある。

いちご農家の仕事は漁師としてのアイデンティティーからの逃亡とはいえようやく逃げることが役にも立ったことが感じられる。
浅野はお酒の代わりにいちごの生命力に依存している人間を魅力的にしている。

『おかえりモネ』第111回 新次と耕治が長らく取りこぼしてきたことに向き合いはじめたとき、百音も…
写真提供/NHK

内野聖陽もそうである。彼が演じる耕治は『モネ』のなかでは屈託のないキャラ設定で、実際恵まれている。震災の被害も少なく、仕事も順調。ところが、好きなことを自由に選択してきたつもりだったが、人生の折返しに来てふと思い直す。家業から背を向けて来たことについて。
彼もまた逃げてきたことに向き合おうと考えるのだ。今週のサブタイトル「大人たちの決着」を浅野忠信と内野聖陽がしっかり締めてくれるそうで安心感がある。

大人たちが長らく取りこぼしてきたことに向き合いはじめた時、百音もまた家業に向き合いはじめる。ふと自分でも何かできないかと考え始めるのだ。さすが百音は父似と言われていただけあって思考のパターンが似ているのではないだろうか。先週あれほどきっぱりと「私は気象予報士です」と言っていた百音だったが、あの覚悟は実際、嵐の現場で、最後は祈ることしかできないとぽっきり折られてしまったようだ。
これもまた陰の方向に下がってうなだれてしまった流れである。

清原果耶はこれまでは負の状況にも頭をもたげる芝居をしてきた俳優である。だが今回はなかなかそうできない人物を演じている。自然というあまりにも巨大なものに人間は無力であるという哲学を全身で表現している。彼女にとってそれは大きな挑戦であろう。大人たちは無力である認識とそんなことは関係なく生き続ける命の力を解き放つ。
物語はそこまでいってナンボであろう。「くそ度胸」「しぶとさ」とはそれではないのか。



山は海と水でつながっているように、無関係に見えて繋がっていることがある。気象予報も牡蠣の養殖もみんな繋がっている。というか、耕治も百音もまわりまわって本来のところに戻ってきたということであろう。だが未知は父の転身希望に「現実的じゃないよ。やれると思えない」と醒めた口調。その気持もよくわかる。

『おかえりモネ』第111回 新次と耕治が長らく取りこぼしてきたことに向き合いはじめたとき、百音も…
写真提供/NHK

新次と百音が会う場面。まず亮が大変だったねーという話にならず、いちごの話から入る。互いに遠慮があるのかもしれないが、生死に関わる大変なことがあってもここまで警戒しあわないとならないほどの何かがこの人達の中にあるようだ。「いちごきれいでしょ」と新次が言っても、百音は全然反応しない。いちごに罪はないのに。「あいつにはまだそういうのわからないかな」と言うので、あいつ(亮)と同世代の百音にもまだわからないってことかもしれない。まるで岸田戯曲賞を獲りそうな小劇場の演劇のようなムードである。

それにしても百音。震災後、逃げるように地元から離れ、ようやく戻って来た時の疎外感にもめげず役所にも家にも自分の場所をじわじわと広げていく。赤ちゃんのような、どんなに非力でも生きる力。
(木俣冬)

『おかえりモネ』をさらに楽しむために♪








番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 坂井真紀 千葉哲也 山寺宏一 山口紗弥加 菅原大吉 佃典彦 茅島みずき 伊東蒼 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami