『おかえりモネ』第23週「大人たちの決着」

第114回〈10月21日(木)放送 作:安達奈緒子、演出:梶原登城〉

『おかえりモネ』第114回 新次が9年目の決断をしたとき、耕治もまた父親の諦めない精神を継ぐ
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

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新次(浅野忠信)が妻・美波(坂井真紀)の死亡届けに判を押した。第113回で「(美波の存在が)ながっだことになんかなるわけないだろ」と耕治(内野聖陽)が言ったことに続いて、龍己(藤竜也)が仏壇に収まることで相手を身近に感じると言う。

【レビュー一覧】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第114回掲載中)

状況を受け入れることで、新しく前向きな関係性が生まれる。
成仏できないという言葉があるように、美波があの世に行ったことを認めないでいると、彼女の居場所はあの世とこの世の中途半端なところにさまよってしまう。亡くなったけれどいつもそばにいると思うと、彼女に話しかけることもできて、そうしたら彼女はある意味、いつだって蘇るのである。

死者との共生――これも朝ドラではしょっちゅう描かれている概念である。わかりやすく幽霊として出すこともあるし、『モネ』のようにナレーションで見守ってくれている雰囲気を出すこともある。

新次が龍己と話して笑っているとき、明るい日差しが降り注いでいたが、亮(永瀬廉)が永浦家の玄関を出る時、雨が降ってきた。「すべてが整うと雨が降る」とかつて百音(清原果耶)が決心して東京に旅立つ時にサヤカ(夏木マリ)が語った言葉である。
地球を循環する水がまわりまわって、雨になって降り注ぐ。亮(永瀬廉)も新たな旅立ちを迎えたことを雨が示している。

この時の百音の表情や言い方がどことなくサヤカみたいになってきて見える。もしかしたらサヤカも若い時は百音のように一生懸命だけど未熟で頼りないところもあったのかもしれない。

友人・新次の9年目の決断を見て、耕治も決意を固める。永浦水産を継ぐことを。
未知が帰ってくる(亮を送って少し時間を共に過ごしてきたのかも)と家族会議がはじまる。新次と亮が百音たちに見守られて本音を話し合ったように、永浦家、全員集合。雅代(竹下景子)の写真まで持ってくるのは、美波のことがあったから、改めて雅代のことを考えたのであろう。

頑固な龍己と純朴な耕治ががっつりぶつかり合う。「人間ってのは変わるんだよ。変わっていいんだよ」と調子のいいことを言う。
それを百音は「真っ直ぐでポジティブ」と表する。尊敬と呆れの半分半分くらいの表情で。

『おかえりモネ』第114回 新次が9年目の決断をしたとき、耕治もまた父親の諦めない精神を継ぐ
写真提供/NHK

耕治の長台詞。これまで銀行で融資した街の人たちは、誰もがやめることが頭をよぎることもあり、その時、龍己のめげなさ(『モネ』的にいうと「しぶとさ」ってことであろう)を励みにしていたという。「簡単じゃない。だからやるんだよ」と父譲りのしぶとさを見せる耕治に本当は嬉しいだろうに龍己は「やるならやってみろ。
おまえには無理だ!」とぶっきらぼうに振る舞う。

亜哉子(鈴木京香)は雅代が昔、言っていたことを思い出す。

「土地を耕し、水を治める。何があっても自分の力で踏ん張れる。そういう人になってほしくてつけた名前なのよ。私たちはどうしても自然に振り回されてしまうから。
だから漁師でなくてもよかったの」

“何があっても自分の力で踏ん張れる”。まさに今の耕治の選択したことである。つまり、困難にぶち当たり諦めそうになった時、それでもやり続ける人がいることで、みんなの支えになる。耕治のやりたいことは水産業を継ぐことというよりは諦めない精神を継ぐことなのである。金融だって諦めないための支えだから。人が何かを成し遂げるためにお金を貸すのだ。


「変わっていいんだよ」と言うが、耕治の核になる部分は不変なのだと感じる。お金を貸すことで地域の活性化に尽力していた耕治が、今、地域に必要な諦めない心の象徴を守ることに変わったのだ。もちろんいまだにお金も大事ではあるだろうけれど。



何かダメージがあった直後はもちろんショックも大きい。その反動で踏ん張って立ち上がる強さを発揮する人たちも多いだろう。それですぐに復活したらいいけれど、長い時間が必要なこともある。10年近く経過してもまだまだ先が見えない時の心身の疲労は相当のもの。その時、それでも辞めないことがどれだけ力になるか。

時に音楽で、時に銀行で、そして今度は水産業で。職を変えながら、この土地で踏ん張っていく。それが耕治の宿命。そういう意味では新次も、漁師からいちご農園に職種を変えたとはいえ、この土地を離れるという選択はけっしてしていない。ここで生きることを選択しているのである。

『おかえりモネ』第114回 新次が9年目の決断をしたとき、耕治もまた父親の諦めない精神を継ぐ
写真提供/NHK

亜哉子は「あなたたちも好きなことしなさいね」と娘ふたりにやさしく声をかける。彼女もまた好きなことをしようとしているし、夫の考えも応援する。好きなことがなかなかできない、というかやろうとしても自然に振り回されてできないこともある。それでも私たちは好きなことを諦める必要はないのだ。彼女たちの言動から強い意思が伝ってくるようだった。

余談ではあるが、内野聖陽がこの間まで出演していた『化粧二題』の舞台美術は大漁旗に彩られた楽屋だった。これは2019年にも一度、上演されていて、そのときも大漁旗の美術が印象的だった。また同年、内野は『最貧前線』で漁船の船長役を演じていた。頭にはちまきして漁師の衣装をきりっと着こなし男臭さを出していた内野。回り回って『モネ』でも海の男になるようだ。漁師ではないけれど。
(木俣冬)

『おかえりモネ』をさらに楽しむために♪








番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 坂井真紀 千葉哲也 山寺宏一 山口紗弥加 菅原大吉 佃典彦 茅島みずき 伊東蒼 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami