『おかえりモネ』第23週「大人たちの決着」

第115回〈10月22日(金)放送 作:安達奈緒子、演出:梶原登城〉

『おかえりモネ』第115回「19対5」絶対的な数値上では亮にかなわないと理屈で考えるのが菅波らしい
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

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第114回の回想シーンで、雅代(竹下景子)耕治(内野聖陽)の名前の由来を語った。「土地を耕し、水を治める。何があっても自分の力で踏ん張れる。
そういう人になってほしくてつけた名前なのよ。私たちはどうしても自然に振り回されてしまうから。だから漁師でなくてもよかったの」。

【レビュー一覧】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第115回掲載中)

代々続く家業を子供に当然のように継がせるのではなく子供の意思に任せた結果、回り回って耕治は水産業を選ぶことになった。

「(何があってもくじけない象徴になる人や場が世の中には必要で)だがら、永浦水産。こごはなくしちゃダメなんだ」と熱っぽく語る耕治は諦めない人の象徴である。
東日本大震災をはじめとして多くの自然災害に人類が負けない意思でもあると同時に、五十歳過ぎても新しいことをはじめていいというような年齢差への抗いでもある。

多くの人に希望を与える耕治。演じているのは内野聖陽で「聖なる陽」という名前を持っている。耕治の太陽のような明るさは演者の名前に影響されているようだ。

どんな時でも太陽は登ってきて、地球を照らし温めて、生き物の力になる。命の源のような存在である。
朝、百音(清原果耶)がブナの笛から芽生えた木を日に当てようと庭に出る。小さい芽が随分大きくなった。それを「かわいいな」と愛でる龍己(藤竜也)。この木に雅代が転生していることにうっすら気づいているのだろうか。

百音はこの鉢植えを龍己に「あげよっか」と言う。回り回って龍己の元に雅代が戻って来た。
元になっている笛は耕治が作ったもので、彼がびぃーーっと吹いたことで命が吹き込まれたのではないかというファンタジックな妄想が浮かんできた。

『おかえりモネ』第115回「19対5」絶対的な数値上では亮にかなわないと理屈で考えるのが菅波らしい
写真提供/NHK

「大事にしてあげて」。百音の控えめな言い方があたたかく聞こえた。縁側でかすかな朝日に当たりながら百音と語り合う龍己。「養殖の仕事、お父さんできると思う?」という百音の問いに、龍己は未経験で五十代半ばの耕治が水産業を継ぐことを従来のやり方から考えたらありえないことだが、同じやり方をしないで彼なりのやり方でいいと答える。「変えなぎゃいけないものはとっとと変えてよ、大事なものを守っていぎゃいいんだ」と。


“大事なものを守る” その気持ちさえあれば、どこでもどんなやり方でもいい。それはおそらく人間でも牡蠣でもブナでも魂は何度でも生まれ変わるのと同じである。

笛がすごい音をしたと思い出を語りながら「懐かしい」と百音はつぶやく。震災以後だって懐かしくかけがえのない思い出はできている。災害で分断されたこともあるけれど、家族や隣人との思い出は生まれていく。こういう誰かとのちょっとした触れ合いの後、百音がラジオ放送をすると語りかける声がことさら思いやりに満ちたものに聞こえてくる。
体験が語り手の深みを作りだしていくのだ。

じわっとヒューマンな物語が綴られた後は微笑ましい恋愛パートへ。1月13日成人の日、百音が事務所で亮(永瀬廉)と嵐の時のことをヒアリングしたついでにお互いのわだかまりを解いているところに菅波(坂口健太郎)がひょっこりやって来る。この日、ついに永浦家に挨拶することになっているが、いつものごとく早く来てしまったようだ。



『おかえりモネ』第115回「19対5」絶対的な数値上では亮にかなわないと理屈で考えるのが菅波らしい
写真提供/NHK

菅波がどこまで聞いたのか定かではないが、「本音を言ってくれるようになって嬉しかったよ」(百音)、「俺、どんだけ壁作ってたの」(亮)とか、亮が「あのさ、俺もそうだけど、百音もあの時から……」と意味深に言い出した時、菅波の存在が話を途切れさせる。

「19対5か……圧倒的に分が悪いなあ」とぼそりとつぶやく菅波。
きょとんとする百音と亮。菅波にとっては長い年月を過ごした幼馴染との関係を時間という絶対的な数値のうえではかなわないと考えてしまう。そこが理屈の人・菅波らしい。

百音のラジオがはじまると、菅波と亮は並んで百音を見守り、手まで振る(菅波は振らずに手を控えめにあげるだけ)。幼馴染と恋人に見つめられた百音は少し顔をほころばせるがすぐに正し、真顔で放送を続ける。ささやかな幸福の時間。

未知(蒔田彩珠)と亮の関係も順調のようで、亮は百音と会った後、未知と会うことになっている。でも「あのさ、俺もそうだけど、百音もあの時から……」の続きも気になるんだが……。
(木俣冬)

『おかえりモネ』をさらに楽しむために♪








番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 坂井真紀 千葉哲也 山寺宏一 山口紗弥加 菅原大吉 佃典彦 茅島みずき 伊東蒼 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami