朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第1週「1939-1941」
第6回〈11月8日(月)放送 作:藤本有紀、演出:安達もじり〉

※朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第7回のレビューを更新しましたら、Twitterでお知らせしています
往復書簡仕立て
第2週は「1939-1941」。サブタイトルで時代がわかるのは親切である。朝ドラを観ていて、今、何年になったんだっけ?と思うことがあるから。【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜6回掲載中)
岡山のお菓子屋の娘、主人公の橘安子(上白石萌音)は14歳で初恋を経験する。地元の名士の長男・雉真稔(松村北斗)に淡い恋心を抱き、大阪の学校に戻った稔に手紙を書くようになる。
「EPISODE 006 連続テレビ小説」は岡山と大阪に分かれて生活する安子と稔の往復書簡形式だった。手紙の中に「十五夜」「正月」と季節が、それと社会情勢も織り込まれていく。それと稔の返事では、大阪のことや雉真家のこと――主に弟・勇(村上虹郎)のことが説明される。
手紙で伝わる月日と時代の流れと登場人物の事情。これを普通にやったら駆け足のダイジェストのような実に味気ないものになるところだが、手紙でやると驚くほどじんわり来る。これも手紙が主流だった時代が舞台になっているからこそやれることである。きちんと折々の景色の点描があることも効果的だ。
「今夜は十五夜です」「今夜も月がきれいです」と手紙でやりとりする安子と稔。「月がきれい」は「アイラブユー」の意味だと夏目漱石が書いているというホントか嘘かわからない話が流布しているが、そのせいで月の話題が出ると自ずと恋気分が高まる。直接的な表現でないからこそ胸が疼く。
いつの間にか実用英語講座がなくなった。それはヨーロッパのほうで戦争がはじまったから。昔ながら続いている季節行事と並行して遠くで戦争が起こっている。
秋、十五夜、お月見の団子、小豆、お汁粉、冬、お正月、餅つき……とお菓子屋らしい描写。手紙がどんどん増えていく。母が気にすると「心配せんでええよ、おかしなお付き合いじゃねえから」と答える安子。手紙のやりとりだけでもへんなお付き合いを心配される時代。へんなお付き合いってどんなお付き合いなのだろう。第1週で勇が雉真家と和菓子屋では身分が違うと言っていたので本来、付き合えないとわきまえているのだと思うと、安子の笑顔が切なく見える。

お正月、稔と会って映画(兄・算太が気に入っていた桃山剣之介の主演映画)に行く約束をしていたが、稔は岡山に帰って来ることができなかった。なかなか会えないふたり。
稔の弟で、安子の同級生である勇は甲子園を目指している。
ところがその夏、甲子園で勇は負けてしまう。村上虹郎の、負けた時の一瞬虚無であとから悔しさが湧いてくる表情に見応えがあった。俳優たちの演技力は確かだ。
お正月に稔が帰ってこられないことを知った安子はにぎやかな餅つきの時、うかない顔をしている。その心情はそこで言葉になっていないが安子の寂しさが手に取るように伝わってきた。安子の親友・きぬちゃん役の小野花梨のちょっとした表情も何を思っているかビビッド。松村北斗の抑制気味な表情には長男の宿命みたいなものを感じる。それに川べりをトンビを着て歩いているだけで画になる。コートの似合う俳優のひとりに加わった。
「チェリー」が「櫻」に
安子がおじいちゃんのタバコを買いに行くと、最初は「チェリー」だったのがいつの間にか「櫻」と日本語に変わっている。「私たちの暮らしはどうなっていくのでしょう」と安子は稔に問いかける。その返事には「オン・ザ・サニーサイド・オブ・ストリート」の英語歌詞が書いてあった。あの喫茶店で聞いた曲である。安子はせっせと和訳してみる。おそらく稔からもらった辞書を使って。<幸せの君の足音>という歌詞に、第2回のラストに出てきた裸足で2階から駆け下りてきた安子の白小豆のような足が思い出された。安子が草原を駆ける足音と<幸せの君の足音>の歌詞が重なり、安子の顔に光が差す。<心配ごとは玄関に置いて ひなたの道へとあるき出そう>という歌詞が胸に響いた。

これはまるで名作朗読劇『ラヴ・レターズ』のようではないか。『ラヴ・レターズ』は男女が長い時間をかけて手紙をやりとりする趣向で、その中で心境の変化や時代の変化を見せていくもの。パルコ劇場で90年代から多くの俳優たちの組み合わせで上演し続けられている。ふたりの俳優が並んで椅子に座り、ただ手紙を読んでいるだけにもかかわらず感情が溢れて胸に迫ってくるのである。
(木俣冬)
番組情報
連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
2021年11月1日(月)~<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
作:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami