朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第3週「1942-1943」
第11回〈11月15日(月)放送 作:藤本有紀、演出:橋爪紳一朗〉

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1942年12月
1942年12月、ラジオからは2日、フィリピンの戦いにおいて日本軍が首都マニラに潜入、占領したと伝える声がする。何年何月何日とテロップが出なくてもニュースの内容で日付がわかるところが興味深い。【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜11回掲載中)
それを聞きながら橘家は食事。
ニュースでは日本軍が活躍しているが人々の暮らしは締め付けが厳しくなり、衣料品が手に入りづらくなり、荒物屋の吉兵衛(堀部圭亮)は法外な値段で衣料品を売る。「ケチ兵衛の面目躍如」と非難されるが、吉右衛門のためと言い張る吉兵衛。息子への愛情はたしかに真実だとは思うのだが……。


衣料品といえば雉真繊維。学生服の製造はできないがその代わり軍服製造の需要があり困ってはいないようだ。当局から来た通知の日付は昭和16年(1942年)12月12日。
衣料品が買えなくて杵太郎(大和田伸也)の愛用の足袋も一足しか買えない。そんな中、小しず(西田尚美)は安子(上白石萌音)に毛糸のチョッキを編むことにする。毛糸の節約でチョッキしか作れない。でも安子は「ぬくそうじゃなあ」と満足そう。
こうして1942年12月の戦争と市民の暮らしの情景がアバンタイトルで描かれた。戦争で暮らしが楽ではないという描写ながら、衣料品をモチーフに市民の暮らしぶりが丁寧に描かれて、充実のアバン。
「僕の人生には必要な人なんです」
赤いベストが出来上がり、それを着た安子のもとに稔(松村北斗)から手紙が来た。春休みに帰省するとの嬉しい知らせに安子の顔はほころぶ。こういう時、安子に降り注ぐ日差しはあたたかそう。「久しぶりにディッパーマウスに行きたいな」。稔のこの口調が本当にさわやかで、純粋に聴こえる。

ちょうど安子はディッパーマウスにおはぎの配達。コーヒーも豆が手に入らず、代用コーヒーにせざるを得ない。代用コーヒーといえば、『エール』の喫茶バンブーを思い出す。代用スイーツもいろいろ作っていたっけ。
安子は思い出の「オン・ザ・サニーサイド・オブ・ザ・ストリート」を聴いて稔に想いを馳せるが、敵性音楽をかけていると窓ガラスを割られてしまう。善人たちのささやかな生活が取り締まられて、笑顔がすこしずつ減っていく。
そんな中、稔が帰って来た。勇(村上虹郎)は東京の大学に入り、家を出ていた。甲子園の夢も恋も潰えた勇が家を出たくなった気持ちは語られない。でもあっさりしているからこそよけいに彼の虚しさと精一杯の強がりが響いてくる。
今度は稔に政略結婚の話が……
質素な橘家と比べて雉真家の食卓は贅沢。お刺身も肉もある。千吉(段田安則)は戦況に合わせて商売を大きくしている。さらに事業を拡張するため、頭取の娘との縁談を稔にもちかける。安子の政略結婚が解決したと思ったら、今度は稔に政略結婚の話が……。
稔が「僕には心に決めた人がいます」と安子のことを話すと、両親はびっくりして猛反対。「商店街のちいせえ菓子屋じゃが」「あんたは騙されとるんよ」とまで言う美都里(YOU)に「母さんは……黙っていてください」と「母さんは」で思わず声を荒げそうになって「黙っていてください」を慌てて抑制する稔。普通だったら「黙っていてください」が怒声になってしまうだろう。そうならないように瞬時に自分を律することのできる精神性。
安子が美都里と対面
雉真家から菓子の注文がきて、安子は急いで自転車を走らせ出かける。春休みになったのに稔から連絡が来ないので気になっていたから、稔が現れるのではないかと期待したと思うが、現れたのはちょっと怖い顔をした美都里だった。甲高い鳥のさえずりが不穏。美都里は息子の想い人・安子を見極めようとしているのだろうか。どうなる、安子。(木俣冬)
【前回の朝ドラ】『おかえりモネ』の全レビューを見る
番組情報
連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
2021年11月1日(月)~<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
作:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami