朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第10週「1962」
第43回〈1月3日(月)放送 作:藤本有紀、演出:松岡一史〉

※本文にネタバレを含みます
※朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第44回のレビューを更新しましたらTwitterでお知らせしています
宇宙人の名前が判明した
母・安子(上白石萌音)と哀しい別れを経験し大人になったるい(深津絵里)は岡山から大阪に単身出て来て、竹村クリーニング店に住み込みで働くことになった。【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜43回掲載中)
新天地での生活。そこで知り合った客の片桐(風間俊介)に心惹かれる。
るいをあたたかく見送った竹村夫妻(村田雄浩、濱田マリ)は「よっぽど甘えることになれてへんのやろ」「あの子の笑た顔が哀しそうにしか見えへんのや」「デート、楽しんでるといいね」などとるいの過去を慮(おもんぱか)る。当人にはあくまで明るく接し、その裏では心配している。とても理想的な接し方である。当人に向かっていかにも心配しているように振る舞うと萎縮してしまうものだから。
その頃、るいはデートの楽しみはあっけなく終わり、その代わりにジャズ喫茶「Night and Day」でトランペットの演奏を楽しんでいた。演奏しているのは、るいが「宇宙人」とあだ名をつけた男(オダギリジョー)だった。普段とは打って変わって髪をオールバックにきちっとセットし、スーツを着て見違えるよう。それをうっとり見ているべリ−(市川実日子)といけすかない態度で見ているトミー(早乙女太一)。トムはすかして見えるが、たとえ話はコッテコテの関西ふうだった。
宇宙人の名はジョー。ジョーとかトミーとかベリーとか日本人なのに外国の名前で呼び合う人達に、「何ここ。
この日の名セリフは「なんでいちいち語尾に名まえをつける?」であろう。彼らがいちいちセリフのあとに「〜〜〜、ジョー」「〜〜〜、トム」とかつけるのは演劇的だし、ラジオドラマの名残もあるかもしれない。テレビだったら話しかけた人物の顔を映せば済むが、音だけだと誰に言っているかわからないから。
あるいは、視聴者に名前を早く覚えてもらうためだろうか。いや、ここで名前を強調しているのは、ジョーがるいを「サッチモ」と呼ぶことを強調するために違いない。

るいとジョー、ようやくお互いの名前を認識すると、ジョーは「やっぱりジャズが好きなんや」と鋭い洞察力を発揮する。その推測は半分合っていて半分違っている。ジャズが好きなのはるいの父・稔(松村北斗)と母・安子であった。るいがジャズを父母にならってそのまま好きかはここではまだわからない。どちらかというと読書のほうが好きそうである。
映画の帰り、ひとりでジャズ喫茶に入るということから素養はありそうに感じるが、「サッチモのるいと違うの?」と訊かれて、「なんじゃサッチモって」と、ルイ・アームストロングの愛称がサッチモであることをるいは知らない。
たしかにルイ・アームストロングとサッチモには直接的な関連性はなく、略称でもなんでもない。サッチモとは「satchel mouth」(大きな口)や「Such a mouth!」(なんて(大きな)口)という言葉から来たあだ名である(諸説あり)。定一の営んでいたジャズ喫茶の店名で、出歯口の憂鬱と訳されたディッパーマウス・ブルースもルイ・アームストロングのあだ名のひとつであったとか(このタイトルの楽曲もある)。なにかと「口」に注目されていた。
現代だったら身体的特徴をあだ名にするなんてハラスメントになりそうだが。そんなことよりもるいは、ジョーの服にいつもついているケチャップの秘密を知り、「洗いてー。いますぐ洗いてー」と心の中はそれでいっぱいになる。

和子と平助がまるでるいの両親のように、デートで何を食べてくるか夢想していると、るいが「Night and Day」の洗濯物を大量に請け負って帰宅する。和子の作ったおかずに見せた笑顔は、今までにない明るいもので、竹村夫妻を驚かせる。
そら豆と厚揚げの煮物。そら豆のグリーンと厚揚げのきつね色の組み合わせがやさしくあたたかく、言葉だけでも笑顔になりそうな美味しそうなメニュー。
「豆」といえば、第43回を観て、2021年に人気だった民放のドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』のタイトルは『カムカム』のモチーフのひとつである「小豆」に賭けていたのではないかとひと妄想した。というのは、『大豆田〜』にオダギリジョーと市川実日子が出ていたからである。どちらも主人公・大豆田とわ子(松たか子)にとても重要な関わり方をする役を演じていた。
なにはともあれ、2022年もまめに暮らしましょう。
(木俣冬)
【前回の朝ドラ】『おかえりモネ』の全レビューを見る
番組情報
連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
2021年11月1日(月)~<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
作:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami