朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第10週「1962」
第45回〈1月5日(水)放送 作:藤本有紀、演出:松岡一史〉

※本文にネタバレを含みます
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「う〜ん、ミステリアス」
ジョー(オダギリジョー)と出会って、るい(深津絵里)は自身の封印していた幼い頃の記憶を思い出しはじめる。その一方で、彼女自身が大阪道頓堀で出会った人たち(クリーニング屋夫婦やジャズ喫茶関連の人たち)にミステリアスな存在視されている妙味。【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜45回掲載中)
平助(村田雄浩)と和子(濱田マリ)の武村夫婦には、るいが身寄りのない孤独な人物に見えている。孤独は孤独なのだが、本当は大金持ちの家で育って、金銭的には苦労していないはずである。彼女がどこかおっとりしていて上品そうなのはそのせいであろう。
あとで、ジャズ喫茶「Night and Day」のマスター木暮(近藤芳正)がベリー(市川実日子)に対して「考え方がええとこの短大生やあらへんねん」と言う。ベリーはお金にものを言わせ、どこかガツガツしている。それに比べてるいには欲望がまったくない。ええとこの子感はるいのほうに醸されている。
夏。どでーんと大きなスイカが手前に映って涼しさを醸し出す。7月のお給料に色をつけてもらって(夏のボーナス的な?)もるいは貯金すると言い、和子に「あんたみたいな若いかいらしい子が着たい服も食べたいもんも行きたいとこもないやなんて、ほんなしょうもないこと言うんやないの」と叱られる。彼女の気持ちはあとでジョーが代弁する。
でも「温泉でも行くんか」発言は謎。いまならおひとり様も旅館に泊まることができるが、昭和30年代、孤独なるいがこの時代、女ひとりで温泉に行くことが可能であるとは思えない。まあ、和子は友達や恋人を早く作って楽しんでほしいという意味も込めているのだろう。
買い物に来てはみたものの
和子に言われ、何かを買おうと街に繰り出するい。偶然ジョーに出会い、彼は勝手にレコードを買いに来たと思い込む。相変わらずマイペースな人物である。買い物に来てはみたものの、るいは欲しいものが見つからないでいた。るいは過去――母親との記憶も、「オン・ザ・サニーサイド・オブ・ザ・ストリート」の記憶も、自分の将来もまだ見えていない。ジョーといるとよけいに混乱すると困惑するものの、その混乱によって、るいの思考が整理されていくことに彼女はまだ気付いていなかった。
お金をコーヒーに使おうとジョーに誘われ「Night and Day」に来たるい。またも「サッチモ」と「るい」についての話題になり(しつこい。みんなよっぽどルイ・アームストロングが好きなのだろう)、るいは安子(上白石萌音)に語られた名前の由来を思い出す。だが、叔父が野球好きで野球の塁からとったと誤魔化す。
第44回の「祖父」に引き続き、「叔父」とるいが口にするだけで、勇(村上虹郎)の顔と、彼が野球に打ち込んで、るいのことを「みんなで塁(るい)を守るんじゃ」と言っていたことを視聴者は思い出し、あたたかい気持ちになる。思うに、るいは心を閉ざしているが、母にも叔父にも……家族の愛に育まれていたのである。そこに気付くことがるいにとって最も重要だろう。
ここで抑えておきたいのはトミー(早乙女太一)。「どうりでジョーのお気に入りなわけや」とか、「ただの田舎もんや」と言い放つベリーに対して「いや……」と何か気付いたような、いろいろ思わせぶりなセリフや表情をしている。ミステリー仕立てのなか、トミーがミステリーの登場人物的役割を担っている。