朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第10週「1962」

第47回〈1月7日(金)放送 作:藤本有紀、演出:松岡一史〉

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第47回「特別」だと思う同じ曲で繋がったるいとジョー
写真提供/NHK

※本文にネタバレを含みます

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「すごく特別な曲」

ジャズ喫茶「Night and Day」主催のサマーフェスティバルにおめかししてでかけたるい(深津絵里)は、ジョー(オダギリジョー)の演奏に動揺して店を飛び出す。

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慌てて追いかけてきたジョーは「オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート」がるいにとって「特別なもの」だと思って、あえて選曲したらしく、この日のるいの様子を見て、「特別」なんてものじゃない「すごく特別な曲」であることを確信する。だがるいは「あなたのせいです」「あなたのせいでよけいなこと思い出してしもうた。
忘れたかったのに。忘れるために岡山を出たのに」と反発する。

まだまだ引っ張る『聖女のパン』。ジョーが住居で「サニー・サイド」をトランペットで吹いたとき泣いていたから、特別な曲だと感じて、おそらくるいのために演奏したら、「あなたのせいでよけいなこと思い出してしもうた」と怒られてしまった。『聖女のパン』では主人公の勘違いでほのかな恋は消滅してしまうが、『カムカム』はそうではなかった。

地蔵盆の日、るいが階下を見ると、ジョーがいて、子供たちと遊んでいる。
たこ焼きを食べようとして服に落としてしまったジョーを見て、猛スピードで駆け寄る。「なんですぐ汚すんじゃ」「なんであなたはこう……」とお母さんのように世話を焼くるいに、「良かった」と安堵の表情を見せるジョー。

ジョー「サッチモちゃん怒ってると思ってた。もう僕の洗濯してくれないと思った」
るい「そげえなわけねえじゃろう。わたしゃあクリーニング屋なんじゃから」

これはキュンだろー。ピュアラブって感じである。
ただ、この流れを見て思ったのは、片桐(風間俊介)が不憫だなということだった。ジョーはるいを怒らせてしまったからもう会えない(洗濯を頼めない)と心配し、店のそばをうろついていたと考えられる。

片桐もるいの傷を見たとき適切な振る舞いができず傷つけてしまったから合わせる顔がないと気に病んでいたのではないだろうか。でもジョーはるいの傷をまだ見ていないうえ、持ち前の飄々とした感じで素直に振る舞えるので、るいも気楽になれる。「怒ってるかと思った」「もう僕の洗濯してくれないと思った」と言葉にするから、そうではないとちゃんと言える。

片桐とるいの場合、どちらも言葉足らずだった。
ちゃんと言葉でお互いの気持ちを説明し合えば、理解できたかもしれないのである。あの日、るいはひとりよがりだった。何か言わんとする片桐に対して、聴く耳を持たず、扉を閉ざしてしまった。と、これはるいが幼い頃、安子に対して行ったこととまったく同じである。安子がるいを置いて大阪に行き、入学式の日に戻らず、追いかけてみたらロバートと抱き合っていた。

大好きな母が自分から離れてしまうと思い込み、安子の話を聞こうともしないで扉をぴしゃりと閉めた。
幼さゆえこじれてしまった出来事をずっと抱えてカラダは成長したけれど、るいの心はまだあの幼い少女のままなのであろう。

一方、ジョーにとっても「サニー・サイド」は「特別」であると木暮(近藤芳正)から聞いたるい。ジョーにとってはどう「特別」なんだろう。この曲を「特別」に思うふたりが、同じピンクの服を身に着けている。ふたりは「サニー・サイド」で繋がっている。



朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第47回「特別」だと思う同じ曲で繋がったるいとジョー
写真提供/NHK

るいとジョーの和解のきっかけとなった地蔵盆。
劇中でも語られているが、地蔵盆は主として近畿地方で行われる、子供のためのお祭り。町内に祀られているお地蔵様信仰に基づいたもので、大阪、京都、滋賀ではお地蔵様が街のあちこちに今も点在している。

筆者は京都しか知らないが、通りのそこここに個性的なお地蔵様があって、それがある町内ごとに地蔵盆が行われるのである。町内に祀られているお地蔵様をきれいに磨き上げ、その周辺に屋台などを出し、子供にお菓子が配られる。子供も大人も一緒になって長い数珠を108回まわすのが恒例行事。

朝ドラでは主人公たちの生活圏内に祠がよくあるのだが、今回は地蔵が路地に配置されていて、それに続いて地蔵盆だったので、台本に合わせて美術が作られていることがわかる。
『カーネーション』のだんじりや『わろてんか』の薬神社のお祭りなどその地域ならではのお祭りが描かれることがある朝ドラ。地蔵盆もこれを機会に関東の人にも知られるといいなと思う。

『カムカム』で地蔵盆だったのは、セット内でできる規模が求められたのか、第1部の安子と稔が出かけたお祭りとの差別化か、いろいろ考えられるが、子供を想う行事に、母(安子)の子(るい)を想う気持ちを重ねたという解釈を筆者は推す。
(木俣冬)

『カムカムエヴリバディ』をさらに楽しむために♪




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番組情報

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ

2021年11月1日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami