朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第11週「1962-1963」

第48回〈1月10日(月)放送 作:藤本有紀、演出:泉並敬眞〉

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第48回 親の愛に飢えたるいとジョーの後ろ姿に風情
写真提供/NHK

※本文にネタバレを含みます

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「会いたいんやなおかあさんに」

るい(深津絵里)ジョー(オダギリ・ジョー)が仲直り。クリーニング屋の物干し台と縁側(この美術が素敵で)かき氷を食べながら語り合うと、お互いの共通点がわかる。ジョーにとっても「オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート」は特別な曲だった。


【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜48回掲載中)

ジョーは岡山で進駐軍の催しで日本人が歌ったそれを聞いていた。明らかにクリスマスに定一(世良公則)が歌ったものであろう。ただ、るいはその場に居合わせていない。るいはジャズ喫茶でこの曲をよく聞いたと語る。

ジョーが進駐軍のパーティーで瓶をトランペット代わりにしていた少年だったと思うと、あの少年はやんちゃだったのに、ジョーはずいぶんおっとりしていて面影があまりない。

いつの間にか、るいの記憶はカラーになっている。
第10週ではぼんやりしたモノクロの思い出だったが、「サニー・サイド」を聞くたびに色濃くなっていった。

るいの名前の由来と、名付けたのが父であると知って、「やっぱりサッチモのるいやったんや」とジョーは嬉しそうだが、「そやのに、母は私を捨てました」「進駐軍さんと恋をして」と言うときの思い出はモノクロに戻る。「幼かった私を置いて、アメリカに行ってしもうた。じゃから思い出しとうなかった」と言うるい。

真っ白い洗濯ものをバックに、るいはふんわり光に包まれている。哀しい思い出と心の中のわかだかまり。
ネガティブなことを言っているにもかかわらず、口調も表情も濁りなく、透明度が高いるい。彼女の心を、ジョーは「会いたいんやな、おかあさんに」と理解する。

ところがるいは、ジョーが話を聞いていない(理解していない)とカッとなる。本心を突かれて焦ったのか、本当に思いもよらなくて驚いたのか……。たぶん前者と思うのだが。

「生乾きのシャツ着て帰りゃええ」と酷いことを言うるい(母との別れの頃からカッとなると残酷なことを言いがち)。
だったが、立ち聞きしていた竹村夫妻(村田雄浩、濱田マリ)が割って入ってうやむやにする。これは朝ドラ名物・立ち聞きのいいパターン。そのままジョーは夕飯を竹村家で食べる。お祭りの日はお祭りで売られているものということで、大きなともうろこしが美味しそうだった。

ジョーは人の気持ちを理解する能力に長けているが、本心を言葉にして逆に怒られてしまう。一般的に推奨されている、人の話を傾聴し、言った人の言葉を繰り返すことで理解を示すこととジョーのしたことは違う。
ジョーは、るいの話を傾聴したが、るいの言ったことと逆のことを言葉にしたため、人の話を聞いていないと怒らせてしまうのだ。

だが、このままジョーが、そうだよね、思い出したくなかったよねと同調していたら、るいはずっと殻に閉じこもってしまうばかり。ジョーのように荒療治というか、認めたくない本心を自覚させてしまうほうがるいのためにはいいのかもしれない。場合によっては良くないこともあるだろうけれど。

つまり、すべきであるとかすべきではないとかいうマニュアルを鵜呑みにしないで、心のままに振る舞うことが時として相手のためになるのだとジョーを見ていて思うのだった。

ジョーとるい

ラジオでは、ヨットでアメリカまで旅した堀江謙一のニュースが流れている。るいの母・安子(上白石萌音)がアメリカに渡った理由は、進駐軍将校のロバート(村雨辰剛)との恋ゆえか、はたまた違う目的か。
真実が明かされるときは来るのだろうか。

この堀江さんのエピソードは『べっぴんさん』(2016年度後期)でも出てきて、このニュースが登場人物に影響を及ぼすのだった。
※参照:『べっぴんさん』110話「残りの人生、わてと一緒に冒険の旅に出ませんか」



軽い夕飯を食べたあと、るいとジョーは夜のおまつりを散歩。ぼんぼりに花火の灯りがきれい。

花火を見ているジョーの顔に憂い。るいの顔も憂い。
ジョーもるいも親の愛に飢えている。そして「サニー・サイド」を思い出に、日なたの道を探して迷っているところ。並んだ二人のくっつきすぎず、離れすぎない距離感がいい。

気づくとジョーが消えている。ひとり取り残されることはるいにとっては何よりもつらいことであろう。きっとこのとき、すごく不安になったに違いない。探して小走りすると、ジョーは風鈴売りの前にいた。

風鈴をひとつ、るいにプレゼント。細い黒のボーダーが入った透明なもの。るいは取り残されていなかったことに安堵したことであろう。

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第48回 親の愛に飢えたるいとジョーの後ろ姿に風情
写真提供/NHK

「サニー・サイド」を口笛で吹くジョーのうしろを、風鈴をぶら下げて着いていくるい。るいがおずおずと少しだけジョーに近づいた感じで、そのふたりの後ろ姿になんとも言えない風情があった。

この日をきっかけに、るいはお給料でお買い物をする気になる。日なたの道に一歩前進。3連休の最終日の月曜日。まるで土曜日まで放送があった頃、例えば『ひよっこ』で土曜日回には田植えするだけの回があったのときのような、ゆったりほっこりした回だった。
(木俣冬)

『カムカムエヴリバディ』をさらに楽しむために♪




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番組情報

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ

2021年11月1日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami