新型コロナのパンデミックが本格化する少し前の2019年12月。日本では「デジタル手続法」が施行され、行政手続きのオンライン化が原則化された。

早い話が、煩わしい手続きをワンストップで実現することだ。これまで自治体や民間のサービスを含め、いくつもの役所や窓口をハシゴし、何枚もの同じような書類に署名捺印してきたような面倒極まりない手続きが、ブロックチェーンという最新のデジタル暗号化技術によって統合され、一括で済んでしまうのだ。住民の利便性が高まるのはもちろん、自治体などの職員の人的負担を軽減することも期待されている。とくにウィズコロナ、アフターコロナの時代においては、できる限り非接触、非対面による手続きが望まれ、一刻も早い普及と活用が求められている。


 「デジタル手続法」の核となるブロックチェーンの情報連携を積極的に推進しているのは、30社以上の企業や団体が参画している、企業間情報連携推進コンソーシアム「NEXCHAIN(ネクスチェーン)」だ。


 NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの通信大手3社をはじめ、東京ガス、大阪ガス、あいおいニッセイ同和損害保険、三井住友海上火災保険、明治安田生命保険相互会社など、多彩な業界のトップ企業が名を連ねている。


 そんな中でも活発且つ具体的に推進している企業の一つが日立製作所積水ハウスだ。日立は「デジタル手続法」が施行されるより前の2019年9月より、大阪市とスマートシティの実現に向けたデータ利活用に関する連携協定を締結し、AIやIoTをはじめとしたデジタル技術の活用による市民サービスの向上や地域ビジネスの活性化、行政事務の効率化など、データに基づく政策立案の推進に共同で取り組んできた。


 また積水ハウスとともに、引っ越し時に発生する複数のサービスとの契約手続きの簡素化と利便性向上を目指し、NEXCHAINプラットフォームを用いて本人確認情報を連携させて活用する検証も重ねてきた。確かに、引っ越しの時には不動産会社との賃貸契約手続きだけでなく、ガスや電気、水道の開栓や自治体への各種手続きなど、手間がかかるものだ。これらの手続きをブロックチェーンによって簡略化できるのであれば願ってもないことだ。


 そしていよいよ動き出した。

日立と積水ハウス、そしてNEXCHAINは、大阪市の協力のもと、2021年5月20日より、積水ハウスが提供する大阪市内の賃貸物件について、同意を得られた入居者を対象に、積水ハウスの賃貸契約と大阪市への水道使用開始に関する一連の手続きを、ワンストップで実施する実証実験を開始した。


 今回の実証は、積水ハウスと大阪市の間で官民データ連携を行い、水道使用開始手続きに限定して行われるものだが、いずれは、不動産賃貸管理会社が入居申込・契約時に得た本人確認情報をインフラ会社・事業者と連携することで、水道だけでなく、賃貸入居後に必要となる電気やガスなどの契約手続きもワンストップ化することを目指している。成功すれば、大阪市のスマートシティ化が大きく前進するとともに、賃貸住宅サービスなどの新たな付加価値を創出することにもなるだろう。不動産以外の業界にとっても、良いモデルケースとなるに違いない。


 行政への手続きは何かと複雑で、手間がかかることも多い。しかし、ブロックチェーンの活用が加速すれば、近い将来にはそんな苦労も懐かしい昔話になっているかもしれない。

(編集担当:藤原伊織)