【写真】“モノづくり”に情熱注ぐ吉岡里帆&中村倫也出演の映画『ハケンアニメ!』
『ハケンアニメ!』の舞台となっているアニメ業界は、特殊なものに感じるかもしれないが、作品の構造自体は、“モノづくり”にかける人々の想いを描いたもの。
町工場を舞台にした「下町ロケット」(2015)や出版業界を舞台にした「重版出来!」(2016)といった、現場と営業の気持ちが、ひとつに重なっていく王道的展開。この手のカタルシスは、日本人が大好きな展開ともいえる。
スピーディーな展開と、業界の最前線で活躍するスタッフたちが集結して制作された、本作オリジナルの劇中アニメ『サウンドバック 奏の石』と『運命戦線リデルライト』のクオリティ。切り離して単体作品としても通用するようにも思える作中アニメが説得力と娯楽要素を同時に向上させているのだ。
W主演として、吉岡里帆演じる斎藤瞳と中村倫也演じる王子千晴が、それぞれ異なる事情を抱えるアニメ監督の対決構造でありながら、ふたりの目指す方向は同じ。それはアニメで人々を感動させたいということ。
斎藤瞳は、元国家公務員でありながら、アニメ業界に足を踏み入れた異例の経歴の持ち主。新人の女性監督でありながら、ちょっと可愛いというビジュアルをフル活用したプロモーション展開に違和感を抱く日々が描かれる。
原作が連載されていたのは、アニメ雑誌ではなく、女性誌の「an・an」というのも意味深い。現実の厳しさが立ち塞がる世の中を突き進む主人公の姿が多くの共感を得たのではないだろうか。
ただ素晴らしい作品を作ったところで、観てもらえなかったに意味がない……。
一方で、天才監督と言われ続けるプレッシャーと、放送局との方向性の違い、無視できない視聴率、年々厳しくなるコンプライアンスなどによって、自由な表現ができないことに苦しむ王子千晴の視点からも描かれている。
この千晴というキャラクターは『セーラームーン』シリーズや『少女革命ウテナ』の監督として知られる幾原邦彦がモデルだ。幾原は2011年に『輪るピングドラム』の監督を務めるまで10年以上のブランクがあるが、これは単純に企画が通らなくなったことが理由だとされている。作中では短期間のように描かれているものの、スランプ状態から脱却する過程がリアルに描写されているのは、モデルがいたからこそなのだろう。
中村倫也の持つ独特な空気感が、多くを語らないために問題を軽視しているようにも思われがち。しかし実は必死に考えている……といった、言葉では表せない奥行を持たせることにも成功している。
さらには、現場で働く技術者からの視点、営業からの視点など、様々な視点が交差し、互いの想いがひとつになっていく。そしてそれは、本作を制作したスタッフの想いにもメタ的に通じることで、壮大なアンサンブルドラマを完成させたのだ。
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▼映画『ハケンアニメ!』
連続アニメ『サウンドバック 奏の石』で夢の監督デビューが決定した斎藤瞳。だが、気合いが空回りして制作現場には早くも暗雲が…。瞳を大抜擢してくれたはずのプロデューサー・行城理は、ビジネス最優先で瞳にとって最大のストレスメーカー。