吉本新喜劇とNMB48が共演するミュージカル「ぐれいてすと な 笑まん」の東京公演が2022年5月26日から明治座で始まった。新喜劇とNMB48という、大阪・ミナミのど真ん中で育ったエンタメ同士のコラボ公演に、NMB48からは14人(安部若菜・石田優美・加藤夕夏・川上千尋・小嶋花梨・貞野遥香・塩月希依音・渋谷凪咲・上西怜・新澤菜央・原かれん・平山真衣・本郷柚巴・山本望叶)が出演中。
5月14日から22日までの大阪公演を終え、東京にやってきた大阪文化を凝縮した舞台の見どころを、NMB48メンバーの出演ポイントを中心に紹介しよう。

【写真】笑わない「ナギイチ!」も披露、ミュージカル「ぐれいてすと な 笑まん」【12点】

吉本新喜劇の川畑泰史が脚本を企画し、自らも座長として主演するこの舞台は、2017年のミュージカル映画「グレイテスト・ショーマン」のタイトルをもじり、ミュージカルと銘打ちながらも新喜劇のノリ・ツッコミの空気感が一貫して流れている。新喜劇ならではのスラップスティック・コメディに、NMB48が培ってきた演技やバラエティのスキルがミックスされた作品の舞台は実際の大阪ではなく、地球によく似た星の大阪によく似た国「なんば」。プロローグが終わるとお馴染みの新喜劇のドタバタコメディの次にNMB48のライブシーンがあり、代表曲の「僕らのユリイカ」「ナギイチ」を歌うメンバーたち。ここではいつものパフォーマンスとメンバーのアドリブで客席に笑顔を振りまく。

新喜劇とNMB48のライブで始まった舞台が、徐々に芝居のストーリーが見えてきてミュージカル色を強めていく。「なんば」の川畑が頭を打って意識不明になり、病院で目が覚めるところから芝居の本編が始まるが、アイドルライブからミュージカルへの鮮やかな転換に貢献しているのが川上千尋・塩月希依音・加藤夕夏だ。

川上は芝居パート冒頭にソロを歌って観客をミュージカルの世界に誘い、この舞台への意気込みが伝わるさすがの歌唱力を見せる。塩月は出演メンバー最年少ながら、川上とともに看護師役を好演。医師役の新喜劇のすっちーのアドリブに負けじと笑いを取りに行き、舞台度胸とコメディセンスを印象付けている。加藤は座長の川畑の妻・夕夏を演じ、かつ「なんば」におけるNMB48のマネージャーという役どころ。なぜこんな「美女と野獣」のようなカップルが…?という馴れ初めは舞台を観てのお楽しみとして、加藤にはソロ曲もあり、川畑と加藤の芝居にはこれが新喜劇発のコメディであることを忘れてしまうような甘い雰囲気すらただよう(それをぶち壊して笑わせてくれるのがまた新喜劇の俳優陣なのだが)。
この舞台のヒロインとして川畑を支え、また新喜劇とNMB48という二つのエンタメの橋渡しを担っている。

本作では第1幕に毎回日替わりゲストの芸人がお笑いの講師という役回りで出演し、NMB48のメンバーとのアドリブが展開される。彼らが振ってくるお題にNMB48メンバーがどんなリアクションを見せるかも注目だ。筆者が観劇した公演はかまいたちがゲストだったが、石田優美や原かれんのツッコミ力に、クールビューティーなままで劇場全体を笑わせてしまう山本望叶の意外性、的確なコメントでメンバーのボケもフォローしつつ、かまいたちから振られたトークのボールを返してみせる渋谷凪咲のさすがのバラエティ力が目立っていた。

「なんば」では、笑うとうつると言われる感染症 「アホナウイルス」が蔓延しているとの風評により、政府の感染対策として新喜劇の劇場は閉鎖、NMB48のパフォーマンスから「笑うこと」を禁じられてしまう。昨今の感染対策に縛られたアイドル現場を風刺するかのように、ライブ風景として1幕とはうって変わって無表情での「ナギイチ」のパフォーマンスが披露されるが、それはそれで様になっているのがシュールで、この舞台以外では二度とお目にかかれなそうなシーンでもある。終演後のアフタートークでもネタにされていたが、上西怜や新澤菜央ら天真爛漫なメンバーが多い中でポーカーフェイスの山本望叶が2幕ではますます笑わなくなっており、表情が顔に出にくい性格を逆手にとってかえって存在感を見せていた。

笑いが禁じられた状況を打開するために川畑ら新喜劇のメンバーが新喜劇復活を目指すが、そこに加わるのが笑顔のないライブに反発してNMB48を飛び出した渋谷・原かれん・本郷柚巴の3人。新喜劇の俳優とともにボケでズッコケ、本郷は松浦真也森田まりこの「ヤンシー&マリコンヌ」の鉄板の持ちネタであるリンボーダンスに挑戦する。いつものNMB48劇場よりも広いステージで、発声から練習を重ねてきたというメンバーの劇場全体に響くセリフ回しやリアクションにも注目だ。

川畑の脚本をもとにミュージカル演出家の玉野和紀が演出・振付を担当したこの舞台には、コメディなだけでなく社会風刺のメッセージもしっかり込められている。ウイルスの流行や国によるエンタメへの介入など、ここ2年の世相を風刺しているかのような内容には、笑いやアイドルの果たす役目について考えさせられる。
アイドルにとってのアイデンティティそのものである笑顔を奪われた世界で、どう生きていたいか。前出の渋谷・原・本郷のセリフは、コメディとして笑えるだけでなく、グループとファンを笑顔で元気にしてきた彼女たちの矜持を訴えているかのようでもある。

NMBと新喜劇に介入するウイルス担当大臣の秘書役の小嶋花梨は眼鏡をかけ、スーツを着て恵まれたスタイルが映える。役柄上笑いを取りに行くことは少ないように見せかけてセリフの端々でボケをかますので、クライマックスまで彼女にも注目してみてほしい。人々の間に笑いを取り戻そうとする加藤と、笑いを取り上げる側の小嶋は正反対の役回りでもあり、衣装や立ち居振る舞いも対照的な雰囲気づくりができていた。

ウイルスの正体など全てが明らかになった後、フィナーレでは玉野による書き下ろしの主題歌を出演者全員でパフォーマンスし、作品のコンセプト通りに笑いと元気を観客に届けて幕が下りる。どこまでがアドリブで、どこまでが台本なのかがわからない上に、日替わりゲストとのトークで公演ごとに客席を沸かせる演者も違ってくるこの舞台、アイドルのファンもリピートするごとに見どころが増えていくだろう。

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