【写真】SKE48の荒井優希と赤井沙希がプリンセスタッグ第10代王者に【53点】
女子プロレスの会場に「華」が戻ってきた!
東京女子プロレスの7・9大田区大会では、コロナ禍で禁止されていた「声を出しての応援」「紙テープの投げ入れ」「横断幕の掲示」が2年以上ぶりに復活した(あくまでもこの日、限定のことであり、今後、すべてが全面解禁となるわけではない)。
スポーツ観戦の醍醐味といえば、なんといっても選手に声援を送ることだ。その醍醐味がコロナ禍で完全にシャットアウトされてしまった。この2年間でファンになった人にとって、プロレス観戦とは「黙って見守り、素晴らしい技には拍手を贈る」というのが当たり前のジャンルなのかもしれないが、以前の楽しみ方を知っている人間にとっては、なんとももどかしい日々がずっと続いてきた。
もちろん無制限でなにをやってもいい、というわけではなく、あくまでもしっかりとマスクを着用の上、客席も通常の50%に間引く、という条件つきでの実験的な開催となったが、紙テープが投げやすいアリーナ席は早々に完売。いかに観客がこの日を待ち望んでいたのかがわかる。
その喜びを真っ先に体感したのがアップアップガールズ(プロレス)のメンバーだった。東京女子プロレスといえば、SKE48の現役メンバー・荒井優希が注目されがちだが、じつはアイドルとプロレスラーを両立している存在はかねてからいるのだ。両方やることを前提としたオーディションに応募してきた彼女たちは、試合前の歌のコーナー(昭和から続いている女子プロレス界の伝統でもある)でアイドルとしてリング上で楽曲を披露し、そのあとプロレスラーとして試合をしている。
この日もいつものように歌を披露したのだが、ずっと聴くことができなかった客席からの歓声とコールに包まれて、メンバーは泣いた。
「最初はちゃんと『ありがとうございました!』とお礼を言って、2曲目を歌うつもりでいたんですけど、実際にみなさんの声援を聞いてしまったら……やっぱり泣いちゃいましたね。本当に久しぶりのことだったので」
そう語るメンバーの渡辺未詩は、この日、プロレスラーとしても大事な試合が待ち構えていた。当初は初来日の外国人選手を迎え撃つ予定だったが、来日が遅れてしまったため、急きょ、対戦相手がフリーの水波綾に変更となった。
パワーが売りの渡辺未詩だが、水波はそれ以上にパワフル。しかもアメリカの人気団体・AEWでも活躍してきた。そういう意味ではこのカード変更はチャンスにして試練。得意のジャイアントスイングで水波の分厚いからだをブン回すと予告していたものの、回すどころか持ちあげることも難しい。
それでもめげずにジャイアントスイングにトライしたとき、会場の空気がひとつになった。
「回せ! 回せ! 回せ!」
自然発生的に起こった「回せ!」コール。その声援をパワーに変えて、渡部未詩は見事に10回転、スイングしてみせたのだ。これぞ声出し解禁の醍醐味! 観客も一緒になって回したような気分になる一体感と爽快感を本当に久しぶりに味わった。
「アイドルとして受けた声援は『一緒に楽しもう、一緒に盛りあがろう!』で、プロレスラーとして浴びた声援は『がんばれ、がんばれ!』。まったく違うんですよね。本当に大きな力になりました!」
1日でまったく異なる声援を全身で浴びた渡辺未詩は、そういって満面の笑みを浮かべた。あのころに戻ったような、それでいて、まったく新しい時代が訪れたような、なんともワクワクする空間が広がっていたことを彼女は教えてくれた。
そして、この日、もっとも注目を浴びていたのが『令和のAA砲』こと赤井沙希&荒井優希の魅惑のコンビが挑むプリンセスタッグ選手権試合だった。
試合の数日前に対談を取材させていただき、その記事は大田区決戦直前にアップされたのだが、じつはその時点では書けなかったことがあった。
チャンピオンのマジカルシュガーラビッツ(マジラビ)こと坂崎ユカ&瑞希がタッグチームとして、あまりにも鉄壁すぎて、対談の中ではついぞや「私たちはこういう作戦で勝つ!」という強気な宣言は出てこなかった。荒井優希も「こうすれば勝てる可能性があるかも……」とポジティブともネガティブともとれる発言に終始していた。
記事にするにはパンチ力に欠けるかな、と思っていたのだが、帰り際に赤井沙希がこんなことをポツリと言った。
「たしかに“激つよvs激つよ”のほうがタイトルマッチとしては盛りあがると思うんですけど、今回に限っては、私たちに対して『大丈夫なの? 勝てるの?』って思ってもらったほうがいいかもしれない。お客さんも『がんばれ、がんばれ!』って私たちに気持ちを乗せやすくなるし、声出しOKになるから、それが声援に代わってくれれば、きっと私たちに追い風が吹くんじゃないですかね?」
コロナ禍でデビューしたため、いままで観客の声援を受けたことがなかった荒井優希が、はじめての声援で覚醒することを赤井沙希は見越していたのだ。もちろん、それは未知の領域なので、どれだけの力を引き出してくれるかはやってみなければわからない。
2人が入場するとコスチュームの色に合わせた赤と白の紙テープが四方から飛び交い、いつのまにかリングの上を埋め尽くしていた。そのときコーナーポストにあがってアピールをしていた荒井優希は「はじめての紙テープ」をどう感じていたのか?
「紙テープがリングに飛んでくる光景を見たことすらなかったので、まったく想像がつかなかったんですけど、ちょうどコーナーの上に立っていたのでお客さんがすごくよく見えたんですよね。だから紙テープが飛んでくるというより、みなさんが紙テープを投げてくれる姿がしっかりと見えて『みなさん、わざわざ紙テープを用意してくれて、一生懸命投げてくれているんだ!』と思ったら、もうその姿をガン見しちゃいました。嬉しかったなぁ~」
若い選手の中には紙テープ初体験の子も多かったのだが、あぁ、女の子だなぁ、と感じたのは自分のイメージカラーの紙テープをおもわず胸のあたりでギュッ!として感動に浸っているシーンを多く見かけたこと。その一方では紙テープ初体験ということで片付け方にも慣れておらず、見かねたスタッフがリングサイドに駆けつけて片付けを手伝う、というシーンも。2年という月日の長さを感じずにはいられない光景だった。
チャンピオンの鉄壁な連携に振り回された赤井沙希と荒井優希は大苦戦。最初は「行けっ!」と赤井が簡潔に指示を出し、それに合わせて荒井が動く、というタッグワークを発揮していたが、いつしか完全に分断されてしまう。そもそもマジラビはアイコンタクトだけでお互いの動きをコントロールしてしまうので、連携のスピードでは敵いっこないのだ(坂崎ユカが技をかけながら、空いているほうの手でハンドサインを出し、それを見た瑞希がサッとカットに入ったシーンには驚愕。試合の流れを1秒も止めず、相手チームにも動きがバレない究極のテクニックだ!)。
そんな劣勢をひっくり返す原動力となったのは、まさに「はじめての声援」だった。
「あっ、これが声援パワーなのか! とびっくりしました。本当にいろんな方向から声援が飛んでくるんですよ(アイドルのステージでは正面にしか客席がないので、四方からの声援は味わえない)。本当に力になるんですね。パッと客席を見たら、SKE48の会場でも応援してくださるファンの方が一生懸命、声をかけてくださっていてたんですよ。ありがたいですよね、本当に」
ただ、SKE48ファンはプロレス流の応援に慣れていないからか、瑞希のクロスフェイスロックでグイグイ締めつけられる大ピンチにも「アライ」コールが爆発しなかったのは、ちょっと残念だった(ひときわ大きな手拍子による応援は巻き起こったが……)。それでも荒井優希は「きっとみんななら楽しみ方を見つけてくれるはず!」と、プロレス会場における新しい関係性に期待していたのが面白いところでもある。
はじめて体感した応援パワーでチャンピオンチームの猛攻を耐え抜いた荒井優希は、いままでに見せたことがなかった後ろからのFinally(かかと落とし。通常は真正面から放つが、この日は無防備な角度から一撃!)で突破口を開くと、赤井の必殺技である新人賞(二段式顔面蹴り)をふたり同時に放つという本邦初公開の合体プレーで見事、タッグ王座を獲得した。
試合後、赤井沙希は事前の取材では漏らさなかった弱気な本音をはじめて漏らした。
「マジラビとは100回、闘っても99回は敵わないと思う。100回のうちの1回を今日、引きあてることができたのは優希ちゃんの運のよさ、引きの強さだと思う」
まさに1%の奇跡!
「今日はさすがに挑戦してくる人がいないと信じたい」と、せめて今夜だけはチャンピオンとしての余韻を味あわせてほしい、と懇願した赤井沙希だったが、もう追われる立場というターンに入った。
立場が人を変える、とよく言うが、実際にチャンピオンベルトを巻いてから別人のように成長を遂げたプロレスラーをいままで何人も見てきている。これからの彼女の活躍が楽しみだし、アイドルを取材する立場としては、プロレスラーとして、こんなにも得難い経験をしてきたことが、劇場公演において、なにかプラスに働いているのではないか、ということも気にかかったりしている。ファンの声援という目に見えないパワーが2022年夏、新たな風を吹かせてくれたーー。
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