W★INGで、過酷なデスマッチを繰り広げていた元プロレスラー、ミスターデンジャーこと松永光弘。現在は、東京都墨田区で行列のできるステーキハウス『ミスターデンジャー』を経営している。
しかし、コロナ禍により飲食店は大ダメージをくらい、さらに牛肉の高騰という逆風まで…。このピンチをどう乗り越えるのか、元週刊プロレス記者の小島和宏が松永を直撃した。

【写真】現在はステーキ店を営むミスターデンジャー・松永光弘

現在、松永光弘は東京都墨田区立花でステーキハウス『ミスターデンジャー』を経営。みずから毎日、厨房に立ち、おいしいお肉を焼き続けている。今年でオープンから25周年を迎えたが、いまだにオープン前からお客さんが行列を作る人気店だ。

とはいえ、コロナ禍で飲食業界は大ダメージを受けた。それは「行列のできる店」であっても変わりはない。

「結局、国からの協力金、助成金というのもが非常に不平等なものだったじゃないですか? 個人経営の小さな店は、それこそ長期休業してしまえば、たくさんお金を貰えてしまう。ウチは営業時間を短くしたりしながらも、ほとんど休まずに店を開けていたので、そういった補助金的な意味合いでは恩恵を受けられなかったんです。

ただ、いまとなっては店を開け続けていてよかったな、と思います。たとえば半年とか休んでしまったら、いざ再開したときにお客さんはきっと戻ってこないと思うんですよ。ウチは細々とでも続けてきたことで、ありがたいことに、いまもお客さんが来てくださっている。
あぁ、休まなくてよかったな、と。

いま飲食店がどんどん閉店していっている裏には、そういった事情もあると思うんですよね。まだコロナは終わっていない。でも、コロナ対策で受けた融資の返済ははじまっています。ウチはそうなることを予測して、早くから対策を立てていたので、なんとかやっていけますけど、客足は戻らないのに返済もしなくてはいけない、となったら、それは厳しいですよね。

ここにきて、また感染拡大のニュースが飛び交っていますけど、これからもウチは感染対策を強化していきます。オープンから25年が経って老朽化している部分は、この機会によりコロナ対策を強化した形で手を加えていきます。緊急事態宣言や解除された瞬間にアクリルボードを撤去してしまった飲食店もあって、ちょっと驚いてしまったんですけど、より万全の体制を整えたいですね」

このあたりはデスマッチの帝王として、とてつもなく危険な試合形式に飛びこみながらも、必ずリングから生還してきたミスターデンジャーの言葉だけに説得力がある。コロナ禍というデスマッチに無防備なまま臨んだら、とんでもない事態になる、ということを松永は長年の闘いから察知していたのだ。

だが、逆風はこれだけではない。

あまり報道はされないが近年、牛肉の高騰が止まらなくなってきている。ステーキハウスとしては、ストレートに利幅が減ってしまうという大ピンチがもう何年も続いており、コロナとのダブルショックで大変なことになっているのだ。


「中国が牛肉を大量消費するようになったことで、牛肉の価格は世界的に高騰していたんですよ。そこに異常気象などで牛の生育が悪くなったり、という状況も加わり、さらにはまさかの戦争がはじまってしまった。ウクライナが穀物の輸出ができなくなってしまったことで、さらに拍車がかかってしまいましたね。

ウチでも昨年の10月に値上げさせていただいたんですけど、さすがにこのままでは厳しいので7月から、もう100円だけ値上げさせてもらいました。いま1ポンド(450㌘)セットを2850円で提供させていただいていますけど、このボリュームだと4000円を超えるお店もあるようですし、中にはイッキに1000円単位で値上げをしたところもあるようですね。実際、それぐらいやらないと立ち行かなくなるお店も多いと思います。牛肉だけじゃなくて、物価が全体的にあがってきていますから。

できることなら値上げはしたくないですけど、過去の経験上、牛肉の高騰はまだしばらく続くと思うんですよ。急に相場が落ち着くなんてことはないですから。それを考えると、ここで踏ん張っても、のちのち、もっと大変なことになるわけで苦渋の決断ですけど、値上げさせていただきました」

店の前には過去に松永自身が後楽園ホールのバルコニーからダイブした名シーンをパロディーにするような形で値上げ告知がドーンと飾られていた。この取材はオープン前の時間にお店で収録させていただいたのだが、午後5時の開店と同時にほぼすべての席が埋まる盛況ぶり。値上げによる影響はほとんどなさそうだ。
これはもう25年間に渡って培ってきた信用はもちろんのこと、ただ安いだけでなく「安いし、旨い!」という評判が近隣住民に浸透しているからこそ、なのだろう。

「大変は大変ですけど、スタッフといつも言っているのは『とにかく、いい方に考えよう!』です。コロナ禍でも2年間、やってこれたわけですし、我々は過去に狂牛病を経験している。あのときは本当に大変でしたから。助成金も一切出なかったし、他の飲食店は普通に営業できているのに、牛肉を扱う店だけが3年間に渡って苦しめられた。いまだから3年間と振り返れますけど、当時はいつまで狂牛病騒動が続くのかもわからないまま日々、奮闘していたわけで、いまだにあれ以上のことはもう起こらないと思っています。そう考えたら、コロナ禍と牛肉高騰のダブルショックも乗り越えられますよ!」

暗いニュースばかりが飛び交う昨今だが、なにごとも『いい方に考える』というデンジャー流の発想は、そんな時代を生き抜くヒントなのかもしれない。実践するのは難しいが、立ち止まっていたら、なにも変わらないのだ。

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著者・小島和宏
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