先日、日本でも大きく報道されたエリザベス女王の国葬。英国王室は憧れの存在である反面、ゴシップ誌の標的となり、海外セレブのようにも扱われてきた独特の存在だ。
イギリスという国を背負った、伝統と格式そして富の象徴でもあり、ある種の型にはまった、改革の必要ない絶対領域ともいえる。

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そんな英国王室に突如、現れたのがダイアナ・スペンサー。写真集なども発売され、1986年に来日した際には、ダイアナ・フィーバーといわれるカリスマ的人気も博した。一方、スキャンダラスな存在でもあり、夫であるチャールズ3世よりも目立っていたことから、王室側からは煙たがられる場面も多かった。その結末が悲劇的な事故死という誰もが信じがたいものだったこともあり、世界中の多くの人に鮮明な記憶を残している。

公表されていない、できない事実も多く、ミステリアスな存在でもあることから、様々なドキュメンタリーが制作されてきた。

ドキュメンタリーの巨匠エド・バーキンズがメガホンを取った『プリンセス・ダイアナ』(9月30日公開)は、ナレーションをほとんどいれず、彼女の行ってきた功績を淡々と見せることに重点を置いた。王室が監修したり、極端に事実が捻じ曲げられていたりといった作られたものではなく、貴重なアーカイブ映像を繋ぎ合わせることで、少女だったダイアナが成長していく様を見事にまとめあげた、正に決定版である。

またその一方で、10月14日から公開される『スペンサー ダイアナの決意』は、アカデミー賞やゴールデングローブ賞などの賞レースでも話題となった作品で、ちょっと変わったアプローチの作品となっている。

ダイアナを描いた劇映画としては、過去にもナオミ・ワッツ主演の『ダイアナ』(2013)があるが、これはチャールズ3世と離婚後、ハスナット・カーンと交際していた時期をメインに描いており、ダイアナの純粋さや弱さを描いたものとなっていた。他にも英国王室を描いたNetflixの人気ドラマシリーズ『ザ・クラウン』でも、ダイアナの物語が描かれている。またプレビュー版がNetflixでも配信されたミュージカル『ダイアナ・ザ・ミュージカル』(2021)は、ラジー賞(ゴールデンラズベリー賞)の標的にされてしまったが、イギリスの曲にのせてダイアナの恋愛事情が描かれており、なかなか斬新な作品であった。
だが、今作は言うなれば、非常に”ロック”な作品となっている。

今作で描かれているのは、チャールズ3世との関係が破綻している中でのクリスマス休暇の限定的な数日間。伝記映画とは違った、かなり誇張された寓話として、ダイアナの気持ちの内側を容赦なく描いていることため、観ていると終始ダイアナが可哀そうになってくる。

それもそのはずで、監督を務めたのは『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』(2016)で、ジョン・F・ケネディ大統領のファーストレディであったジャクリーン・ケネディが、ケネディ暗殺後に精神的に追い詰められる様子をじわじわと描いたパブロ・ラライン。今作においても、その極度のSっけは健在で、どんどんダイアナを精神的に追い詰めていく。

ダイアナを演じるクリステン・スチュワートが存分に活きており、彼女のロックな部分が役に反映されている。保守的なもの、ガチガチに決めつけられたものに対する反発と解放を描いた作品のようにも感じられ、希望を感じさせるものとなっている。

もちろん実際のダイアナを知って観る方が、考え深いものがあるが、そうでなくても、サスペンス要素も加えたシンデレラ・ストーリーの成れの果てを描いた唯一無二の作品となっている。

▽『プリンセス・ダイアナ』
【イントロダクション】
「ダイアナ元皇太子妃の半生には、愛、悲劇、裏切り、復讐──そのすべてが詰まっている。まさに、現代を象徴する物語だ」と、アカデミー賞®ノミネート歴を誇るエド・パーキンズ監督は語る。そのダイアナのドキュメンタリー映画を〈なぜ、今〉、製作する必要があったのか?それは、彼女の死が私たちに突きつけた有名人と一般大衆の関係、そしてその両者をつなぐメディアの問題が、
SNSの発展によって、ますますエキセントリックになったからだ。ダイアナの生きた軌跡をありのままに振り返ることが、そんな現在の社会をよりよくするヒントになると考えたパーキンズ監督は、ナレーションやテロップによる解説や分析を加えることなく、当時の膨大な資料とアーカイブから厳選したフッテージだけで本作を作り上げた。


監督:エド・パーキンズ
製作:サイモン・チン、ジョナサン・チン
2022 年/イギリス/109 分/英語/カラー/ビスタ/5.1ch/原題:The Princess
日本語字幕:佐藤恵子/字幕監修:多賀幹子
後援:ブリティッシュ・カウンシル 読売新聞社
9月30日より全国公開中

▽『スペンサー ダイアナの決意』
【ストーリー】
1991 年のクリスマス。ダイアナ妃とチャールズ皇太子の夫婦関係はもう既に冷え切っていた。不倫や離婚の噂が飛び交う中、クリスマスを祝う王族が集まったエリザベス女王の私邸サンドリンガム・ハウス。ダイアナ以外の誰もが平穏を取り繕い、何事もなかったかのように過ごしている。息子たちとのひと時を除いて、ダイアナが自分らしくいられる時間はどこにもなかった。ディナーも、教会での礼拝も、常に誰かに見られている。彼女の精神はすでに限界に達していた。追い詰められたダイアナは、生まれ育った故郷サンドリンガムで、今後の人生を決める一大決心をする……。

主演:クリステン・スチュワート、ジャック・ファーシング、ティモシー・スポール、サリー・ホーキンス、ショーン・ハリスほか
監督:パブロ・ラライン
配給: STAR CHANNEL MOVIES
後援:ブリティッシュ・カウンシル 読売新聞社
10 月 14 日(金)、TOHO シネマズ 日比谷ほか全国ロードショー

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