【写真】映画『あちらにいる鬼』より新場面写真が解禁
昨年11月、満99歳で波乱の人生を全うした作家・僧侶の瀬戸内寂聴。1960年代から人気作家・瀬戸内晴美として活躍した彼女が出家した背景には、同業者で妻子ある井上光晴との恋があった。出会うべくして出会い、互いにのめり込んでいくふたりと、全てを承知しながら心を乱すことのない男の妻。「あちらにいる鬼」は、同志にも共犯にも似た不思議な3人の関係を、光晴の長女、井上荒野が書き上げたセンセーショナルな物語だ。
文学に導かれ、求め合う主人公・長内みはる、のちの寂光に寺島しのぶ、井上光晴をモデルとした白木篤郎に豊川悦司、白木の妻・笙子を広末涼子が演じる。寺島と豊川は、本作のメガホンを取った廣木隆一監督・荒井晴彦脚本の『やわらかい生活』(06)で初共演を果たして以降、『愛の流刑地』(07)、『劇場版 アーヤと魔女 』(21)など何度も共演。また、主要3俳優に加え、高良健吾、村上淳、蓮佛美沙子、佐野岳、宇野洋平、丘みつ子という、日本を代表する俳優・スタッフが集結し、情愛を超えたその先の境地に迫る、濃密な人間ドラマが完成した。
雷が落ちたように惹かれ合い、身を焦がすような恋に溺れる作家の女と男、そして彼らの関係を黙認し一歩引いたところにいる男の妻。まるで想像のできない男女の在り方に、原作が小説であることから著者の創作物かと思いきや、そうではないのがこの『あちらにいる鬼』の驚くべきところであり恐ろしいところ。著者の井上荒野は、豊川悦司が演じる白木篤郎のモデルになった井上光晴の実の娘なのである。そして、井上光晴の相手はその名を知らぬ人はいないであろう、故・瀬戸内寂聴だった。
原作発売当時、寂聴が帯に寄せたコメント、「作者の父 井上光晴と、私の不倫が始まった時、作者は五歳だった。」は、あまりにセンセーショナルで衝撃的であり、多くの人々の耳目を集めた。
今回解禁された場面写真には、既に長い髪を剃り落とし、法衣に身を包んだ主人公・長内みはる、もとい寂光が、かつての恋人であった白木篤郎の自宅に訪れ彼の家族と共に食卓を囲んでいる様子が刻まれている。この一枚からだけでも、彼らの関係がいかに稀有なものかが伝わるだろう。篤郎の妻・笙子の手料理に舌鼓を打つ寂光だが、彼女の隣に座っている少女こそが、若かりし日の原作者をモデルにした白木家の長女の姿だ。
この物語のモデルになった実際の人物たちの3ショットからも、その特別な関係性が垣間見られる。原一男監督が井上光晴の〈虚構と現実〉を、癌により死に至るまでの 5年間を追い描いたドキュメンタリー『全身小説家』。第 68 回キネマ旬報ベスト・テンでは日本映画第 1 位を、第 49 回毎日映画コンクールでは日本映画大賞を受賞するなど、国内の主要な映画賞を独占した作品だ。
【あわせて読む】映画『あちらにいる鬼』完成披露試写会に、寺島しのぶと広末涼子がお揃い衣装で登壇