このところ、元アイドルたちの結婚報道が続いているが、その先陣を切ったのはNegiccoリーダー・Nao☆。2月26日に空想委員会の岡田典之との結婚を発表し、4月10日(Nao☆の31回目の誕生日)にめでたく入籍した。


他のケースと違うのは「元アイドル」ではなく、Nao☆はアイドルのまま結婚し、結婚後もアイドルとして活動していくことを決めた。これまでは「結婚=アイドル卒業」というのが常識だったことを考えると、これは極めて異例のこと。そもそも昨年、Negiccoはデビュー15周年を迎えたが、オリジナルメンバーのまま、このメモリアルイヤーを迎えることもまた異例中の異例の話。いまだ誰も歩んだことのない「アイドル道」を新潟から突き進むNegiccoの今を、これから3回に渡ってお届けしたいと思う。まず1回目は入籍したばかりのリーダー・Nao☆の「今」を追う。

例年、誕生日周辺にNao☆は生誕イベントを開催しているが、今年は誕生日に入籍する、と公表していたため、実質上、ファンに向けての「結婚報告会」になる。

4月13日に地元・新潟のジョイアミーアで開催したあと、翌14日には東京に移動し、代官山LOOPでイベントを。けっして広くはないフロアは超満員の観衆でギュウギュウ詰めになった。

これだけ話題になっているのだから、もっと大きな箱で大々的にやってもよかった気もするが、この会場を選んだのには2つの大きな理由があった。

ひとつはここLOOPがNegiccoにとって思い出の場所である、ということ。2013年に彼女たちはこの会場で『Negi ROAD』と題して月例ライブを開催していた。ただ、結成10周年を迎えるというのに、なかなか結果が出せない苦しい時期とも重なっており、その当時、開演前の楽屋を訪ねると、3人ががっくりと肩を落とし、楽屋いっぱいに重苦しい空気が流れていることが多かった。
楽屋が地下にあり、窓などがないので余計に閉塞感をおぼえたのかもしれないが、今となっては青春の甘酸っぱい思い出でもある。

ちなみに楽屋へと向かう階段には、まだ当時のチラシが飾られており、なんとも懐かしい気持ちになったが、3人が「これからどうしよう……」と悩みをぶつけ合った楽屋は綺麗に改装されていた。6年という時の流れ……あのときは、まさか30歳を超えてもアイドルを続けているとはメンバーも思っていなかったし、その会場に31回目の誕生日と結婚を祝ってもらうために「凱旋」できたのだから、なんともドラマティックな話ではないか。

もうひとつの理由は、そんなに大きな会場ではできない、という消極的なもの。現役アイドルが結婚を発表し、入籍直後にファンの前に立つ、というほとんど前例のないケース。本人も運営サイドも「発表したらネットは大炎上するんじゃないか?」と、悪い方向に考えていた。前例がないことだから、けっして楽観的にはなれなかった。

ところが深夜の発表にも関わらず、ネット上は「おめでとう!」の声で埋め尽くされ、気がつけば「Negicco」がtwitterでトレンド1位に輝いていた。ちょうどアイドル業界にネガティブな話が蔓延していたタイミングだったこともあって「15年以上、ローカルアイドルとしてがんばってきた子が幸せを掴んだ」というニュースは、幅広い層に一服の清涼剤として受け止めらたようだ。

イベントの壇上にはプロインタビューアーの吉田豪、そしてタワーレコードの嶺脇育夫社長も登場したが、これは「もしファンの方が怒っているようだったら、2人にフォローしてもらう」という意味をこめてのブッキングだったようだが、それは完璧に杞憂に終わった。昔から彼女をよく知る2人とのトークで、会場はとてもなごやかに。結婚しても、なにも変わらないNao☆のほんわかしたトークと、スベりがちなギャグ連発にファンはどこか安堵したようでお祝いムードはさらに加速することになる。


後半はNao☆によるソロライブ。ただ、4曲を歌い終わったところでサプライズゲストとして、MeguとKaedeが登場。一応、サプライズのつもりだったが前半のトークで「さっき、かえぽが……」と楽屋にメンバーがいることをポロリ(すぐに「LINEで!」とごまかそうとしたが、もうバレバレだった)。ファンとメンバーが一緒になってリーダーの結婚を祝福する。当初、アンコールはまたNao☆がひとりで歌う予定だったが、当日になって「やっぱり3人で歌いたい」とNao☆が申し入れたことで、ソロイベントなのに3人で歌っている時間のほうが長い、という面白い状況に。最後は定番曲「圧倒的なスタイル」で会場全体が肩を組んでのラインダンス。極めてアットホームなムードで、祝祭の儀はお開きとなった。

筆者も結婚については、ファンと同じタイミングで知らされたのだが、昨年の秋ぐらいから「?」という違和感はおぼえていた。夏に15周年ライブを成功させ、秋には中野サンプラザでのリベンジ公演(前回の初ライブがメンバーにとって納得のいかない内容になってしまったので、取り壊されてしまう前に後悔のないステージを見せたい、というのがコンサートの裏テーマだった)があったのだが、そのあたりからメンバーは「20周年は日比谷野音に戻ってきたい」と公言するようになっていた。

すでに満員の観客で埋め尽くしてきた会場であり、そこからさらなる高みを目指してきたのに、なぜ20周年という節目でそこに戻ろうとしているのか? と、そのときは疑問に感じていたのだが、きっとメンバーはその時点でNao☆の結婚を知らされていて、それでも20周年は3人で迎えよう、Nao☆が途中でお休みするようなことがあっても大丈夫なように、あえて高い目標は設定せずに日比谷野音への帰還、という現実的な目標を掲げたのだろう。この6月にはMeguも30歳の誕生日を迎える。Negiccoはまだどのアイドルも歩んでいない道のりを、無理せず、ハッピーなものにしようとすでに動いているのだ。


終演後、楽屋でメンバーと話をしたあと、外へ出ようと思ったのだが、階段の上ではNao☆がお客さんをひとりひとりお見送りしていたので、ちょっと出にくくなってしまった。階段の上から聴こえてくるのは、お客さんのちょっとだけ複雑な「おめでとう」。

もちろん、心から結婚は祝福しているけれども、アイドルファンとしては、なんともいえない感情が心のどこかに渦巻いてしまうのは仕方のないこと。嶺脇社長が「そういうファンの気持ちを考えたら、泣けて泣けて仕方がなかった」とこの日の壇上でも話していたが、たしかにそうだよな、と実感した。

「結婚しても、アイドルとして応援しつづけてもいいんですよね?」というファンの呼びかけに「もちろんです」と答えるNao☆。いままでとなにも変わらないトークとパフォーマンスを目前で見たばかりだから、ファンも本音で話せる。いや、表現者としては、結婚したことで、いままでとはちょっと違う一面も見せてほしいけれども、それはきっと、これからの活動で少しずつ、見えてくるものなのだろう。

会場の目の前には渋谷駅行きのバス停がある。たくさんの人が並んでいるので、これは乗りきれないな、と諦めていたのだが、バスが到着しても誰も乗る気配がない。みんなNao☆が出てくるのを待っているのだ。

筆者は次の予定が詰まっていたので、バスに乗りこんだのだが、次の瞬間、Nao☆が外に出てきて、待っていてくれるファンのみなさんに挨拶をはじめた。窓が閉まっていたので言葉は聞き取れなかったが、そこにいる人たちはNao☆を含めて、みんな笑顔だったことだけは確認できた。
新しいアイドルの形がそこにはあった。(次回、Kaedeソロイベント編につづく)
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