2019年5月25日、アンジュルムの現リーダー・和田彩花の卒業に伴い、2期メンバーの竹内朱莉がグループの新リーダーに就任することが正式発表された。
どちらかというとセンターに立つタイプではなく、愛嬌のある丸顔のおかげもあって“いじられ役”という印象が強い彼女。しかしアンジュルム・竹内朱莉に関して、ずっと忘れられない記憶が2つある。それはいずれも、私が客席でライブを見ていたときの出来事だ。
1つめは2015年に行われたアンジュルム/スマイレージ初期メンバー、福田花音の卒業記念ライブでのこと。長年グループを支えてくれた偉大な功労者を、メンバーも観客も一体となって大きな盛り上がりで送り出そうとしていたそのステージの終盤、ちょうど上手のステージサイドに座っていた私は暗転の一瞬に、竹内朱莉が突然ステージ横に駆け込んでくるのを目撃した。イヤモニに大きなトラブルが発生してしまったのである。
彼女が駆け込んだ直後から、目前にあったミキサー卓の周りでは大人数のスタッフが慌てて復旧作業にとりかかる姿が見えた。
イヤモニの不調はなかなか治らなかったようで、彼女はその後も曲が終わるともう一度、ミキサー卓へ走ってスタッフに短く現状報告をしている。しかし、スタッフにトラブルを伝えていたときも、そしてステージに戻った直後にソロパートが回ってきたときも、私が目撃した竹内朱莉は事実として、不安や動揺を一切表情には出していなかった。
そして時折イヤモニを抑えながらではあったが、リズムも音程も外さず、さらに激しいダンスにも臆することなく、結局竹内朱莉は本編終了までのラスト7曲をイヤモニ不調のまま、あの大箱で完璧に乗り切ってしまうのである。
当時の竹内朱莉はまだ18歳。
しかしながらステージの光と影に見た彼女はすでに、実力と度胸を十分に兼ね備え、そしてグループを全力で支えようとあり続けていた、プロのアイドルだったのだ。
そして、2つめの記憶はほんの少し前。2019年5月11日に札幌で行われた「アンジュルム コンサートツアー 2019春 ~輪廻転生~」、その昼公演を観に行ったときの出来事だ。
このコンサートツアーでは終盤に『夢見た15年』というアンジュルムの最新曲が披露されている。『夢見た15年』はやはりアンジュルム/スマイレージ初期メンバーであった和田彩花にとって、卒業前のラストシングル曲であり、大サビの前には和田と後輩の室田瑞希、上國料萌衣が互いへのメッセージを歌いかけるという、ファンにとって象徴的な一シーンが用意されている。
しかし私が観にいったこの日の札幌昼公演では途中、その大事なシーンの担い手である室田瑞希が(おそらく体調不良で)ステージから一時離脱してしまった。パート割の多いメンバーの突然のトラブルに、グループは事前の打ち合わせもなくその場で穴を埋めていくことになるのだが、異変に気付き始めた客席のファンが心の中で気になっていたのは、『夢見た15年』におけるあの名パートは一体どうなってしまうのだろうか、ということだった。
そして実際に息つく暇もなく『夢見た15年』のパフォーマンスが始まり、大サビ前のメッセージパートを、ついに和田彩花は「いつのまにか 大人になって……」と一人歌い始める。すると和田だけに向けられていたスポットライトの外側で、影の中の一人だった竹内朱莉が胸に手を当て、同じ影の中のメンバーにむかって小さく頷く姿が客席から見えた。そしてそのわずか数秒後、やはりキラキラとした笑顔で、竹内朱莉は室田のパートをごく自然に歌い出したのである。
「ありがとう ありがとう この言葉を」
しかもその笑顔には、不安や動揺はもちろん、メンバーのピンチを助けたという、あってもいいような自己主張がかけらすら存在していなかった。そして竹内の歌声に振り向いた和田彩花は、心から幸せそうな笑みをたたえて、その一瞬を見つめていたのだ。
前身のスマイレージ時代から数えてちょうど10年。アンジュルムはその歴史の全てを知るオリジナルメンバー・和田彩花の卒業によって、確かに一つの時代が、終わりを迎えようとしている。しかしその事実に私があまり不安を感じていないのは、少なくとも私にとっては「竹内朱莉がそこにいてくれる」、この小さくも大きな一点があるからなのだ。彼女ならグループのどんな苦難も、きっと何もなかったかのようにさりげなくカバーし、いつしか乗り越えてしまうのだろう。
そして彼女の持つそのさりげない自覚こそが、2015年の福田花音に悔いを残させず、2019年の和田彩花に幸せの笑みを授けた「新たなアンジュルム」の大事なピースでもあったのだと、現実として新リーダーに任命された今ならよくわかる。
ファンの私たちは、これからも幾度となく、竹内朱莉率いるアンジュルムの「歴史の目撃者」になるはずだ。そんな期待に大きく胸膨らませながら、これからの新リーダー・竹内朱莉の歩みも、できれば客席で、ゆっくり見守っていきたい。