武田真治が、3月4日から放送されている東海テレビフジテレビドラマ『自由な女神-バックステージ・イン・ニューヨーク-』に、伝説のドラァグクイーン・クールミント役で出演している。ドラマは、井桁弘恵演じる地味な田舎女子のサチが、クールミントと出会い人生が180度真逆に動き始めるという上京物語。
初のドラァグクイーン役を、武田はどんな思いで挑んだのか話を聞いた。

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──武田さんはドラァグクイーンであるクールミントという役を演じるにあたって、どんな役作りをされましたか?

武田 昨年、踵を怪我して、習慣になっていたジョギングから遠ざかっていたんですよ。なので年末はちょっとぽっちゃりしていたのですが、クールミントは人の弱い部分に寄り添う“現代のロックスター”だと思っていたので、やはりシャープな方がいいのかなと、ジョギングを再開したり筋トレをして体を絞ったのがビジュアル的な工夫です。

内面的な工夫としては、ロックスターのようでありつつも決して上から目線にならないように、自分も同じように人生で苦しんだ経験者として、言葉の勢いはあってもそこに優しさみたいなものを込めて気持ちを伝えられたらなと思って演じました。

──初のドラァグクイーン役ということで、演じる難しさもあったと思います。

武田 いや~、やはり大変でしたよ! まず最初の衣装合わせが、偉大なる失敗というか必要な停滞通過点という感じだったんです(笑)。


──というと?

武田 普通は衣装合わせって1時間くらいで終わるんですけど、6時間やっても答えが見つからなくて(笑)。というのも、「ファッションデザイナーを目指す主人公のサチがクールミントをイメージして作った衣装」になるので、ファッションとしてもかっこよくなきゃいけないし、ドラァグクイーンとしてのスキャンダラスさもなきゃいけない。そのバランスが難しかったですね。

しかも露出の高い衣装で僕の筋肉がプラスされて、自分としてはこれでいいのかなという思いがあって。でも、現場でみんなが「女性でもない男性でもない新しい形のカリスマに見える」と褒めてくださって、自信を持って演じることができました。あとLGBTQの方々に失礼のないように、気をつけて演じたつもりです。


──ダンスも、お正月返上で練習されたそうですね。

武田 でも、どうしても振り付けがカクカクしてしまうんです。しなやかな動きは、日常で一番意識してないところだなと思いましたね。あと10センチ以上もあるハイヒールを履くのは、正直足首がしんどかったです。女性は日頃こんなふうに努力をしているのかということもわかりしました。そうした経験ができてよかったです。


──第1話でクールミントは「『なりたい自分』が見つからないなら『なりたくない自分』から逃げ続けなさい、なりたくない自分に捕まらないように全力で走るの、闇雲に走って、汗だくで逃げて、そうしたらいつの間にかなりたかった自分になってる」と名言を残します。武田さんも、何かがきっかけで物の見方が変わったという体験はありますか?

武田 これは、この作品を通して一番好きなセリフで、そして若い人に言ってあげたいセリフの1つなんです。僕は北海道出身で、僕が生まれ育った街で、ましてあの時代では「なりたい自分」になれないかもしれない、でもどうしたらなれるかわからないって若者だったんです。それで「なりたくない自分」から逃げてみようと思って、ただ闇雲に東京に出てきたところがあったんです。なので、このクールミントさんのセリフは、ほんとに自分の人生に起きたことのように言わせていただきました。

──クールミントに共感して演じることができたわけですね。


武田 そうですね。クールミントさんは強さだけじゃなくて、弱さもあるしときどき矛盾もあるしとっ散らかるんです(笑)。全然かっこいいスーパーヒーローじゃないし、サチたちにとってのあしながおじさんでもナントカ先生でもないんです。若い子たちと一緒に成長していくのが、クールミントというキャラクターの魅力だと思っています。自分が言ったことの実践者であろうとする姿が人間らしく映るところに、自分も共感して演じることができました。

──先ほど、クールミントは現代のロックスターとおっしゃられていましたが、具体的にイメージされた方はいますか?

武田 僕が言うロックスターというのは、一方的に自分の主張だけをかっこよく言うようなタイプではなく、伝説のロックスター・忌野清志郎さんのイメージなんです。


──そうだったんですか。武田さんは、忌野のロックバンド、RUFFY TUFFYのメンバーとしてサックスで参加されていましたよね。

武田 清志郎さんは、僕が体調を崩して心も折れてしまったときに出会った不思議な人でした。それこそメイクもファッションも、僕の理解を越えたような出立ちでステージに上がっていました。その頃の僕は、ちょっとしたことでつまずいてしまっただけなのに、完全に自分の夢を諦めてしまっていたんです。

そんな僕を、もう一度ステージへ…自分がいるべきところに連れてってくれたという恩が今でもあるんです。
このことはドラマの制作陣には言わなかったんですが、正直に言うと、クールミントさんは清志郎さんを思って演じた部分はすごくあります。僕は清志郎さんに恩返しできなかったので、この役を通じて、自分が清志郎さんにしていただいたことを、自分が若い人にできたらなって思いで演じたつもりです。

──なるほど。ドラマでサチがクールミントと出会ったように、武田さんも忌野さんとの出会いで大きな変化があったんですね。

武田 すごくありました。清志郎さんとのバンド時代は、ライブが終わったあとに負けた人がコインランドリーに行くジャンケンをしていたんです。稀代のカリスマと言われた清志郎さんも、そのジャンケンに入ってくるんですよ。誰にでもフラットで、全く偉そうじゃなかった。そういう姿を見せてもらえたのは、ほんとによかったです。

清志郎さんは音楽を通じて「こうあるべきだ」って強制的な歌を歌っていたわけじゃなく、自分らしくいろってことを伝えていた。一方、『パパの歌』ではサラリーマンをやっている人への尊敬を歌っていたり、自分ができないことへのリスペクトも持っていた。そういった意味でも、今のこの時代にクールミントという役を、清志郎さんを軸に考えるのは間違いじゃないなと思っています。

──なるほど。あと、武田さんにとって筋肉は欠かせない要素ですが、今回の現場で筋肉が活かされたことはありましたか。

武田 やはり筋肉体操もありましたし、筋トレが現場での1つのコミュニケーションになっていた部分もあります(笑)。撮影の待ち時間に、ぼーっとしないようにみんなでエクササイズしてシャキッとするなんてことも何度かありましたね。不思議なのが、例えば同じコンサートを見て汗かくと仲よくなるように、一緒に運動をして心拍数が上がるとコミュニケーションが取りやすくなるんです。それは今回の発見でしたね(笑)。

──では最後に、武田さんからドラマを見てくださる視聴者のみなさんへのメッセージをお願いします。

武田 3月に始まる4回きりという珍しい枠の作品になっております。このドラマは、この春に上京しようか迷っている方、人生一度くらいの大冒険をしてみてもいいのでは?と思っている方の背中を押してあげられるような作品になっています。個人的には、30年ほど前『めちゃ×2モテたいッ!』という番組があった枠に、大人になって帰ってきて感慨深いものがあります。ぜひたくさんの方に、ドラマ『自由な女神-バックステージ・イン・ニューヨーク-』を見ていただきたいです。

(取材・文/土屋恵介)
▽武田真治(たけだ・しんじ)
1972年12月18日生まれ、北海道出身。俳優・タレント業のほか、サックスプレイヤーとしても活躍している。
Instagram:shinji.takeda