福原遥が演じるヒロインの岩倉舞が、空を目指して奮闘していた朝ドラ『舞いあがれ!』。年が明けてからはストーリーが一転し、実家の工場を支える立場になった。
そうしてリーマンショックの危機を乗り切ると、物語は誰もが予想していた舞と貴司(赤楚衛二)の恋愛に……。その中では、貴司の詠む短歌が大きなカギとなっている。『舞いあがれ!』制作統括の熊野律時チーフプロデューサーに話を聞いた。

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「脚本の桑原亮子さんが歌人として短歌を詠んでこられたこともあって、ぜひ短歌を入れたいということになりました。短歌って、ぼくも今回のドラマのために勉強したのですが、31文字と短いからこそ考え方とかものの見方が、ものの見事に出てしまうんですよね。

ダイレクトに気持ちが表現されているものもあれば、隠れていて秘めた思いがにじみ出ることもある。そこに貴司のキャラクターがうまく反映されている。桑原さんにしか出せない世界観だと思うんですよ」

貴司の詠む短歌を巡っては、秋月史子(八木莉可子)という舞にとっては恋のライバルも登場する。史子自身も短歌を詠み、貴司のファンとして古書店「デラシネ」に現れるのだ。

「史子自身も貴司と同じように、生きづらさを抱えている。家庭環境が複雑で、ひとりで生きてきて、たぶん友だちもいない。その思いを、短歌の中に吐露することで気持ちのバランスを取ってきた人なんでしょう。
そこで貴司の短歌と出会って、貴司本人と出会って、自分の吐露している気持ちを認めてくれる人にすごく思い入れを持ってしまう。ただ、舞という人を知って、貴司の短歌に秘められた貴司の気持ちを感じ取る。ただ、それでも自分の思いは伝えたい。そういう強い意志も持っている」

思い返せば、ドラマの序盤でヒロインの舞は思っていることをなかなか言い出せずにすぐに熱を出してしまう幼少期を過ごしていた。貴司も生きづらさを抱え、短歌の世界に救いを見いだした。このドラマの中には、“思っていることを表現することの難しさ”というテーマも潜んでいる。そういう意味で、史子は単なる舞の恋敵にはとどまらず、その大きなテーマにも影響を与える登場人物のひとりなのである。

「最後は舞の部屋で貴司の短歌のハガキを見たときに、悟るわけです。それで、舞にもちゃんと思いを伝えるべきだと背中を押す。史子は自分にとって孤独が大事だということもわかっていて、何かに寄っかかることが創作には結びつかないこともわかっている。だから、最後は潔いんですよ。そして、史子は自分の言葉で自分の歌を詠んでいくんでしょう。
きっと、いい歌を詠む歌人になっていくと思いますよ」

ちなみに、ドラマに出てくる短歌は脚本の桑原亮子さんによるものだ。熊野さんは、脚本が送られてくる度にその短歌を目にして、驚くばかりだったとか。

「ここでこういう歌がくるんだ、と。もちろんすぐにわかることもあるんですが、最初に読んだだけでは理解できないこともあって。それが、物語が進む中で最後につながってきたりするんですよね。本歌取りで二重の意味があるというような点は、先の展開を読んで初めてわかって、驚きました(笑)」

思っていることを素直に言葉に出来る人は、それほど多くない。舞にしてもそうだし、兄・悠人(横山裕)も素直になれずに家族との関係に影を落とした。貴司は31文字の短歌の中に、思いを伝える術を見いだした。

山下美月演じる久留美の恋模様も含め、どこかうまくいかないこともあって、生きづらさを抱えている人たちが、向かい風を受けながら立ち向かっていく。それが朝ドラ『舞いあがれ!』。ドラマもいよいよ最終盤にさしかかる。舞の夢は今後どのような形で結実するのだろうか。
最後に熊野さんは、「久留美も幸せになりますよ」とだけ教えてくれた。

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