毎週月曜22時から放送中のドラマ『合理的にあり得ない~探偵・上水流涼子の解明~』(カンテレ・フジテレビ系)が痛快だ。元弁護士で頭脳明晰、さらには変装の達人の探偵・上水流涼子(天海祐希)と、そんな涼子をIQ140の天才的な頭脳でサポートする相棒・貴山伸彦(松下洸平)が毎回様々な事件に挑み、時に鮮やかに、時にド派手に解決するエンターテインメントである。
見終わった後に胸がスカッとなる本作が誕生した経緯などを、プロデューサーの萩原崇氏に聞いた。

【写真】天海祐希のもみあげ姿も話題に、『合理的にあり得ない』変装カット【7点】

まず、月曜22時のフジテレビと言えば『エルピス』や『罠の戦争』など、政治をテーマにした作品が続いた。そこからいきなりコメディ要素の強い本作……戸惑いや気負いのようなものはなかったのだろうか。

「カンテレドラマでは、方向性を絞っているわけではありません。確かに『エルピス』、『罠の戦争』と政治が軸の作品が続きました。ただ、決してそこだけに縛られるばかりではなく、各ドラマの担当者が『一番面白いものを放送しよう』という意識を持っています。今回も『コメディ系の面白いドラマも作れるんだ!』というチャレンジ精神を持って手掛けています」(萩原氏)

そしてキャスティング。天海祐希と松下洸平という意外なバディの組み合わせに驚いた人も少なくないだろう。なぜこの2人をメインに据えたのだろうか。

「天海さんはシンボリックで、エネルギッシュで、涼子のイメージにピッタリだと思いました。また、私は昔からドラマが好きで、特に大学4年生時に見た『離婚弁護士』(フジテレビ系)に衝撃を受け、人生で初めてDVDボックスを買ったのもこの作品です。他にも『BOSS』(フジテレビ系)も好きで、天海さん主演のドラマに魅了さることが多く、『いつか一緒にドラマを作りたい』という気持ちもありました。
『エルピス』や『罠の戦争』にはなかったライトな会話劇も見せたかったので、『離婚弁護士』と『BOSS』で演出を担当していた光野道夫さんに演出として参加してもらっており、ある意味私自身の夢が叶ったような作品になっています」

一方、松下をキャスティングした理由について、「貴山のクールだけど抜けている愛らしさ、エネルギーがあり余っている涼子を包み込む雰囲気などを鑑みて、松下さんにお願いしようと決めました」とし、具体的な理由も教えてくれた。

「やはり『#リモラブ ~普通の恋は邪道~』(日本テレビ系)で見せた会話のウィット感というか、お茶目さがとても印象に残っていました。また、『最愛』(TBS系)では、『梨央(吉高由里子)を守ろう』という武士のような一途な思いを表現していて、『松下さんなら可愛らしさと力強さの両方を求められる伸彦に絶対合う!』と思ってオファーしました」

本作の魅力のひとつは各話で披露される天海と松下の変装。芸者やメタルギタリスト、ホステスなど、そのジャンルは多種多様。変装自体に役者陣は「『着替えるのが大変』と言いながらも、それでも前向きにやってくれています」とノリノリな様子だ。

「登場人物のカッコ良さや可憐さは残したいため、コントのような過剰な変装になることは避けています。ただ、“変装の達人”でもあるため、変装の度合いを抑えると、それはそれで『変装になってない』『絶対バレるじゃん』となってしまう。そのバランスが難しく、そこは監督も役者さんもメイクさんも一緒になりながら毎回試行錯誤しています」

萩原氏が一番印象に残った変装を聞くと「5話で天海さんが扮した警備員の男性です。“男装”になるため、昔から天海さんを応援してるファンの皆さんに、納得してもらうものにしなければいません。いろいろ話し合った結果、『ゴルゴ13』のようなもみあげをつけることに決まりました、メイクさんが夜なべしてもみあげをカツラにセットしてもらい、納得できる変装を見せられたと思っています」と振り返ってくれた。

一方、貴山も変装も含め、服装から髪型までシチュエーションによってコロコロ変わる。SNSでは、この貴山の七変化に興奮しているファンの声も多い。
貴山のビジュアルはどのように決めているのか。

「松下さんと衣装担当のスタッフが服装を決める際に『貴山って隙を見せるタイプじゃないから、シャツは出さないんじゃない?』という話になり、基本的にタックインにすることにしました。おかげさまで、1話でニットをインしている貴山を見た人からの『松下さんの衣装を担当した人にお歳暮を贈りたい』というコメントをいただき、松下さんたちと『服装も好評だったね!』と一緒に喜びました」

SNSの反響は松下本人にも届いており、「『髪型の作り方ひとつで、こんなにリアクションしてもらえるとは思わなかった』と喜び半分、驚き半分と感じで話していた」という。視聴者が思っている以上にその声は役者陣に届いているようだ。

本作の楽しげな雰囲気はどのようにして作られているのか聞くと、「楽しんでもらえる要素としては根本ノンジさんの脚本が大きいです」という。

「根本さんの言葉選びがとてもユーモラスで、そこが起点となって笑いが生まれています。ただ、実際に役者さんが台本を読むと過剰な表現になることもあり、セリフを変えたり削ったりは珍しくありません。これだけ台本が変わっていくのはあまりなく、私自身とても新鮮です。ちなみに根本さんから『最終的なセリフは現場で好きにやってください』と言ってもらっているので、とてもありがたいです」

アドリブでプランが変更するケースは多いようだが、制作陣だけでなく役者陣のアドリブも少なくない。

「天海さんはサービス精神があり、率先してアドリブを入れています。例えば、5話での白衣を着た涼子の『財前です』というセリフは、『白い巨塔』(フジテレビ系)をパロディーしたアドリブです。その姿に他の役者さんも乗せられ、アドリブを入れることは珍しくありません。
丹波(丸山智己)も当初はあそこまでふざけた感じではなかったです」

登場人物が活き活きとして、ストーリーに勢いがあるのも現場でのアドリブが大きく影響しているのかもしれない。

最後に萩原氏にドラマをどんな風に見て欲しいかを聞くと、「世の中は理不尽な、それこそ合理的にあり得ないことの連続です。『涼子みたいにそういった理不尽にハッキリ物申して良いんだ』というところを感じてもらえると嬉しいです」とメッセージを送ってくれた。

【あわせて読む】『どうする家康』ムロツヨシの怪演から読み解く脚本家 古沢良太の意図、なぜ秀吉を“やべーやつ”に?
編集部おすすめ