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たとえば人気漫画家・冨樫義博は、アフレコ経験のある漫画家の一人。彼の肉声が聴けるのは1999年に放送されたアニメ『HUNTER×HUNTER』(フジテレビ系)の第13話「賛成×反対×おとし穴」で、ハンター試験の3次試験に登場した「受験番号86番の男」を担当していた。
試験の内容は、さまざまな罠が仕掛けられたトリックタワーを72時間以内に脱出するというもの。タワーの頂上に降ろされたものの、下に降りるための入り口や窓がなく、「ここから降りるのは自殺行為だぜ」と立ち往生する主人公たちを前に、「普通の人間ならばな……」と現れたのが、ロッククライマーの肩書を持つ86番だった。
残念ながらその後すぐに怪鳥に襲われて離脱してしまうものの、何より視聴者を驚かせたのは、冨樫によるプロ顔負けのアフレコだろう。低音で渋い声質は聴き心地が良く、怪鳥に襲われたシーンでの絶叫は素人とは思えないほど真に迫っていた。SNS上には絶賛の声が飛び交っており、いまだに伝説の一つとして語り継がれている。
また比較的最近の作品では、2018年に放送された『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』(TOKYO MX ほか)も一例に挙げられるだろう。
同作は、川原礫による大人気ライトノベル『ソードアート・オンライン』のスピンオフ作品。『キノの旅 the Beautiful World』シリーズの作者でもある時雨沢恵一が『SAO』内の「ガンゲイル・オンライン」の設定を気に入り、川原から二次創作の許可を得て作られたのが『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』だった。
そんな時雨沢のアフレコが聴けるのは、アニメ第3話「ファンレター」。「ガンゲイル・オンライン」で開催される大会「スクワッド・ジャム」のスポンサーを務める男性を演じていた。
ちなみにクレジットには、“銃が出てくる作品ばかり書いている小説家”という役名が記載されていたが、これは時雨沢本人を連想させる設定。というのも時雨沢は業界屈指の銃器マニアとして知られており、ペンネームの由来が銃器メーカー「SIG SAUER」(シグ ザウエル)にあるほどの筋金入りだ。
2014年に放送されたTVアニメ『ソードアート・オンラインII』では、銃器監修を担当していたので、“本人出演”はある意味宿命だったのかもしれない。
他方で、『ひだまりスケッチ』の原作者である蒼樹うめは、シリーズを通して“うめ先生”役を担当している。元々は自画像として生み出されたキャラクターで、見た目は緑色のサナギを彷彿とさせる謎の生物。物語に直接関与しないものの、要所で映り込むのでそれなりの存在感を放っていた。
しかも蒼樹は2007年に発売されたミニアルバム内でキャラクターソングを担当し、2009年には「キャラクターソングVol.7 うめ先生」と題したCDを発売。漫画の原作者としては異例とも言えるマルチな活躍ぶりを見せていた印象だ。
そして、原作者のアニメ出演という話題で外せないのが『銀魂』の空知英秋だ。第4話「ジャンプは時々土曜に出るから気を付けろ」の後編パート冒頭で「空知のひとりごと」と銘打たれたミニコーナーが差し込まれており、そこで本人役としてアフレコに挑戦していた。
「少年ジャンプNEXT 2012 AUTUMN」のインタビューによると、アニメへの出演は当時の担当編集者に騙された結果だったとのこと。アフレコ現場の見学に誘われ、ついて行った先で、いきなり「じゃあ折角なんで声入れてみますか」となし崩し的に収録が執り行われてしまったという。
この一件が理由で二度とアフレコ現場には行かないと決意を固めた空知だったが、2021年に公開された映画『銀魂 THE FINAL』では涙の再出演を果たしている。本心で嫌がっていたかどうかはともかく、『銀魂』最後の大仕事としてふたたびアフレコを行った姿には、感慨深いものを感じられる。
視聴者の記憶に刻み込まれた原作者本人によるアフレコ体験。いっそ一つの伝統として、今後も引き継がれていってほしいものだ。
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