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結局のところ、 「男性ファンは根強く、女性ファンは移り気が早い」という考えはある程度妥当性があるのだろうか。『推しエコノミー 「仮想一等地」が変えるエンタメの未来』(日経BP)の著者で、エンタメ社会学者の中山淳雄氏に話しを聞いた。
本当に「男性ファンは根強く、女性ファンは移り気が早い」という傾向の妥当性を聞くと、「そういった傾向は特にありません。そもそも、男性のほうが推しに対する消費額が多い理由として、男女の賃金格差が考えられます」とキッパリ。
「私としてはむしろ男性のほうが移り変わりが早く、女性のほうが根強い印象です。その理由として、女性向けコンテンツの少なさが挙げられます。ゲーム業界を例に出すと、これまで“ゲーム=男性向け”と思われ、男性をターゲットにしたゲームが多く作られていました。つまりは女性向けのゲームは少なくなかった。
2010年にPSP用のゲームとしてリリースされた『うたの☆プリンスさまっ♪』は、携わったクリエイターの素晴らしさが当然ありますが、競合が少なかったからこそ10年以上も愛されているタイトルになりました。裏を返せば、『うたプリ』を脅かすライバルが少なかったことが今なお支持されている一因と言えます」
確かに『うたプリ』のようなアイドル育成ゲームは男性向けでは非常に多い。また、言われてみれば漫画やスポーツなどあらゆるエンタメは男性向けの傾向が高い。
ただ、中山氏は「ネットが普及したことにより、消費者行動が可視化されるようになりました。その結果、『意外と女性もゲームを購入する』ということがわかり、女性向けのゲームは続々リリースされています。今後ゲームに限らず女性も選択肢が増えることにより、男性のように移り変わりが激しくなるでしょう。また、推している人の男女比が9:1、2:8と偏ったコンテンツが以前は多かったですが、最近は男女比が7:3、4:6のコンテンツも増えており、“男性向け・女性向け”という枠組みが適用されにくくなりました。移り変わりの早さなどの男女差は今後減っていくと思われます」と語る。
推しの対象がコロコロ変化したり、特定の推しを長期間応援したりなど、男女間の変化はなくなるのかもしれない。とはいえ、中山氏は時代が変わっても“推し方”の性差は多少なりとも存在するという。
「まず“誰かと一緒に盛り上がる”などコミュニケーションを前提とした推し活をしている女性は見られます。ライブでもサイリウムを余計に買って隣の人にプレゼントしたりなど、人とつながるために推しがち。一方、男性は周囲は関係なく推しだけしか見ていません。
続けて、「男性は推せるかどうかを“見た目”で判断する傾向があります。年齢を重ねることは悪いことではありません。ただ、若々しい見た目の推しを好みやすい。だからこそ、女性アイドルグループでは卒業が頻繁に起きているのでしょう」と話す。
しかし、男性は見た目を重視するのであれば舞台役者に興味をもっと持ってもおかしくない。“2.5次元俳優”という言葉が定着して久しいが、2.5次元舞台は女性に特に人気だ。男性が2.5次元舞台、2.5次元俳優に興味をあまり示さない理由を聞く。
「女性は登場人物の感情の機微、前回公演との演じ方の違いなど、目に見えているものだけではなく、その作品の奥行きまで見ようとします。しかし、男性はアクションや派手な展開がなければ1時間以上じっと座って作品を見ることが苦手です。
それらがあまり表現できないため、2.5次元舞台が男性にはなかなか定着しません。ただ、先述した通り、極端な男女比は変化しており、最近は人気アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』が舞台化されるなど、2.5次元舞台に対する男性の関心も高まっています。
ここ最近推しとSNSで直接コミュニケーションが取れたり、YouTubeなどでスーパーチャットを送って直接応援できたりなど、推しとの距離感はかなり近くなった。推し方が多様化したことについて、「昔はCDを買うか、ライブに行くか、それくらいしか推し活を楽しむ方法がありませんでした。それを考えると楽しみ方が多様化したことにより、ますます推し方も進化していくでしょう」と答えた。今後は性別などに関係なく“自分ならでは”の推し方が定着していくのかもしれない。
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