段原はハロー!プロジェクトが誇る実力派ボーカリストであると同時に、大のカープファン。特に好きなのは菊池涼介内野手で、そのフィールディングに魅了されているという。33番のユニフォームを着ながら、菊池涼介・選手弁当を頬張りつつ、マツダスタジアムで試合観戦する段原の“ガチヲタっぷり”は、Juice=Juice Family(ファンの総称)の間ではつとに知られていた。
セ・リーグでは2014年以降、3連戦もしくは2連戦の試合前に国歌斉唱を行うことになっている。段原と同じ広島出身者だと、吉川晃司や石野理子(元・アイドルネッサンス/現・赤い公園)が過去にはマツダスタジアムで熱唱した。もちろん芸能人なら誰でもできるというわけではなく、矢沢永吉、奥田民生、Perfume、SU-METAL(中元すず香=BABYMETAL)、鞘師里保らに先駆けて段原は大役を果たしたことになる。
しかし段原のことだから、このあたりの事情は重々承知だったはず。重圧に押し潰されそうな日々を送っていたに違いない。8月29日付のブログでは「こんなことあるの!ってこと」と題したエントリーをアップ。「えっっって感じですよね。るるもまだその感じあります。今でもちょっと信じられないような感じです。
さらには「マネージャーさんから、このお話をいただいた時も 夢みたいで なんか現実じゃない感じがして 信じられないまま お母さんにすぐ電話しました 誰かに伝えないと!!と思って」と家族思いの一面も見せる段原。「何回もスケジュール見たりして これは夢じゃないんだなって 何度も確認しちゃうくらい、すごくうれしいです。また夢がひとつ叶います」と喜びを爆発させた。
一方で『君が代』は非常に歌うのが難しい曲としても知られている。メロディは雅楽をベースに作られており、スケール的にはDドリアンを使用。したがって短調でも長調でもない。しかしドイツ人のエッケルトは、そこにハ長調(Cメジャー)の伴奏をつけるというアレンジを強行した。そのため内省的でありながらも、緊張感を孕んだイメージを聴く者に植えつけていく。世界的に見ても特殊かつプログレッシブな『君が代』の世界観を独唱で表現するには、演者に相当な技量が求められるのである。
パーソナル パ・リーグTV内のサイトでは、セ・リーグではないものの、過去の国歌斉唱映像が視聴できるようになっている。
「ただいまより国歌斉唱を行います。本日、国歌斉唱を務めていただきますのは、広島県出身で、アイドルグループ・Juice=Juiceのメンバーとしてご活躍中の段原瑠々さんです。みなさん、どうぞご起立・ご脱帽のうえ、スコアボード上のセンターポールをご覧ください。それでは段原瑠々さん、よろしくお願いいたします」
午後5時53分、Juice=Juice前リーダー・宮崎由加のような声のウグイス嬢に導かれるようにして、段原はグランドに姿を現した。固い表情のままグランドに向かって深く一礼すると、意を決したように歌い始める。
まず最初の「きーみーがー」部分。正直、ここは明らかに緊張している様子だった。リズムも若干走り気味に感じる。段原は自分のことを極度のあがり症だと言うが、ステージでは内面の動揺を観客に悟らせないプロフェッショナル。段原をハロプロ研修生時代から観続けてきた私としても、この歌い出しは意外だった。
しかし、ここからが段原の凡百のアーティストとは異なるところ。「ちーよーにー」に入る頃には完全にリカバリーに成功し、「やーちー」で伸びやかなファルセットを決めると球場の空気を一変させた。その後もノーブレスで歌うのが正解とされる「さざれーいーしーの」を難なくクリア。エモーショナルに少し「溜め」を入れてから、落ち着いたトーンで「いーわーおー」と繋ぐ。最後の「まーあーでー」も原曲のメロディラインに忠実でありながらも、ソウルフルなテイストを加え、深い余韻を与えていく。
さすがである。「広島に段原あり」ということをカープファンに強く印象づけたはずだ。研修生時代の恩師で大の野球狂・上野まり子先生も心の中でガッツポーズをしたことだろう(もっとも上野先生は中日ファンだが)。広島カープの公式HPも「まっすぐな優しい歌声が球場全体に響き渡り、スタンドのお客様から大きな拍手が送られました」と段原の歌唱を手放しで絶賛。なお、試合は6-3で広島が阪神に勝利した。
翌7日、段原はブログを更新。
Juice=Juiceは9月8日より秋の全国ツアーを開始。大舞台での経験を機に、さらに大きく成長した「ネオ段原瑠々」の雄姿が確認できるはずだ。