【写真】自腹で放送枠を買い取ったハリウッドザコシショウ
今年も年末の風物詩『M-1グランプリ』決勝戦が近づいてきた。今大会は最多応募者数が更新されたということで、例年以上に熱い戦いが期待されるところ。しかし、ここに来てお笑い賞レースを取り巻く情勢は微妙に変わりつつある。ピン芸人日本一を決める『R-1グランプリ』では芸歴10年以下の年数制限が撤廃された。一方で結成16年以上の漫才師だけの大会『THE SECOND ~漫才トーナメント~』が新設されたことにより、結成15年以内の縛りがある『M-1グランプリ』で勝利を逃した芸人にもチャンスが到来したのだ。
では今後、お笑い業界はどのように動いていくのか?「賞レースは年々レベルが上がっている」と前置きした上で、現状の分析と未来の展望を解説してくれたのは異能の芸人・ハリウッドザコシショウだ。2016年の『R-1ぐらんぷり』覇者である彼は、21年から審査員に就任。誇張モノマネなど一見するとデタラメに感じる芸風も実はすべて緻密な計算に基づいたものであり、それゆえ業界内での評価は極めて高い。21年に『M-1グランプリ』で優勝した錦鯉が、ハリウッドザコシショウにアドバイスを乞うていたのは有名な話だろう。
「今回、R-1が芸歴制限を取っ払ったのは英断だと思います。もともと個人的には芸歴制限を設けること自体に反対でしたから。
ところが他のコンテストを意識したのか、制限を作ってしまったことにより、『誰でもチャンスがある』というR-1が持つ魅力の一端が削がれてしまった気がするんです。M-1の出場制限は結成から10年、または15年だったじゃないですか(01年と02年は結成10年未満、03年から10年までは10年以内、15年の大会復活時からは15年以内)。仕方なく11年目あるいは16年目からは自分のコンビやトリオを解散させ、個人でR-1に出場するというパターンが多かった。それすらできないというのは厳しいです」
そもそもお笑い芸人という職業において、キャリア10年目は駆け出しの範疇というのがハリウッドザコシショウの考え方。たとえ賞レースで辛酸を舐める結果になっても、「来年こそは……!」と奮起することで実力が身についていくというのだ。
「もちろんテレビ局の立場も理解できる部分はあるんです。『お笑い第七世代』という言葉に代表されるように、番組製作側というのは同じ面白さならベテランよりも若手を重宝したがるもので。だけど横一線で勝負させちゃうと、やっぱりなんだかんだ言ってもキャリアが長いオジサン芸人のほうがウケちゃうんです。そして若い子は埋もれちゃう」
とはいうものの、世代交代を大会ルール上の縛りで推し進めることはいささか強引な印象も受ける。栄枯盛衰、盛者必衰の掟はお笑い史において繰り返されてきており、下剋上を狙う若手芸人が天下を獲るのは自然の摂理だからだ。
「そして、THE SECOUNDができたことで状況が変わりましたよね。M-1のラストイヤーが終わったところで、漫才師として全然やれちゃう。マシンガンズなんていい例ですけど。やはりチャンスは平等に与えられるべきでしょう。
年季が入ったからこその面白さって、やっぱりありますから。それに人間って何もチャンスがないと腐っちゃうんです。チャンスがあるから頑張ろうと考えるわけで。芸人も年齢を重ねればヨボヨボになってみずぼらしく映るかもだけど、逆にそれが深い味わいになることもある。そのへんは人柄にもよるし、そもそもお笑いっていろんなスタイルがあってしかるべきだろうし」
近年、芸人がテレビで活躍するためには、賞レースで勝つことが必須条件のようになりつつある。先日も実力派コンビの和牛が解散したことで世間に大きな衝撃を与えたが、「M-1を制していたら、こんな結果にならなかったかも……」と惜しむ声が絶えなかった。“賞レース至上主義”とも呼ばれるこうした現状について、ハリウッドザコシショウはどう捉えているのか?
「吉本以外の芸人は、特にその傾向が強いです。優勝しないと、爪痕を残す機会すらほとんど与えられない。
ここ数年、ハリウッドザコシショウは審査員としての活躍も目立つ。短い尺の中で、視聴者も演者も納得できるコメントを出すのは至難の業。「あの言い方は誤解を生むかな」「もっと気の利いたことが話せたかも」などと収録後にクヨクヨ考えることも多いという。「芸人たちは本当に人生を懸けて出場しているわけだけど、芸歴制限がなくなったら少しは僕の肩の荷も降りるはず」というのは偽りなき本音だろう。芸人たちが見せる不退転の覚悟に注目が集まる。
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