大相撲の元小結・千代大龍(本名:明月院秀政=めいげついん・ひでまさ、35歳)が、1分間最強を決める格闘技大会「Breaking Down 11」(2月18日、東京・プリズムホール)に出場する。現役時代の最高位は小結で、幕内には58場所、約10年にわたり在位。
横綱と大関にもそれぞれ10回以上勝利を収めた、まごうことなき強豪だ。試合を目前に控えた本人に、Breaking Down参戦の理由を聞いた。(前後編の前編)

【画像】現役時代との見た目の変化も話題になった明月院秀政【5点】

先に公開されたオーディション動画では、びっしり入った刺青と多数のピアスという現役時代とはガラリと変わった“アウトロー・カジュアル”で登場。「みんな知っていると思うんですけど、路上のケンカって相撲が一番強いんですよ」とアピールした。

 大会を直前に控え、本人にリモート取材で意気込みを尋ねたところ、シーシャの煙をくゆらしつつ、まずは各界を去った経緯から語ってくれた。千代大龍は2022年の九州場所7日目に引退を発表。番付的には幕内残留も可能な中での唐突な決断だっただけに、多くの相撲ファンは驚きを隠せなかった。

「特に大きなケガをしていたわけでもないし、正直、あと5~6年は幕内で相撲を取ることができたと思うんです。力士なんて楽な職業ですからね。土俵に上がるだけで給料は月100万円くらいもらえるし、後援者とメシ食うだけで100万とか200万とか手に入るし。

だけど自分の中では、相撲だけの人生じゃ面白くねぇなという考えが強くありまして。やっぱり人生は一度だけじゃないですか。
具体的には飲食業がやってみたくなったんですよ。それで現役時代から六本木や銀座の物件を探していたんです」

 つまり「相撲に対するモチベーションの低下」ということになるのだろうか。六本木の一等地に優良物件を見つけた千代大龍は、すぐさま契約を済ませ、会員制の焼き肉店『みいとらんど』オープンに取りかかる。角界引退はこうした動きの中で必然と言えるものだった。

「なんで相撲取りなのに焼き肉屋なのかってたまに聞かれるんですけど、自分はちゃんこが嫌いなので(笑)。あと、ちゃんこ番って幕下以下の若手が担当することが多いんです。自分は大学卒業後に入門して、わりとすぐ昇進したから、そこを経験していないんですよね」

 強烈なインパクトを与えた“イメチェン”ぶりについても忌憚なく語ってくれた。Breaking Downや大相撲のファンは驚いたかもしれないが、これが本来の自分の姿だというのである。

「ピアスなんて昔から空いていたけど、取組の最中は外さなくちゃいけないから、現役時代はしていなかっただけ。タトゥーも同じで、現役中に入れたらたぶんクビになりますよね。引退した次の月には入れ始めていましたよ。自分が育った環境は少し複雑で、周りにチンピラとか不良みたいな人がすごく多かった。
だから、幼稚園の頃から墨が入っているのは当たり前みたいな感覚でいました」

 まさにBreaking Downにうってつけのキャラクターである。しかし若き日の明月院は不良の道に進むことなく、相撲アスリートとして才能を開花。特に日本体育大学在籍時は国体個人優勝、学生横綱、個人戦アマチュア5冠と目覚ましい記録を残した。

「たしかに相撲は小学生の頃から習っていたけど、めちゃくちゃ弱かったです。1回戦負けばかりで、周りの保護者からも『いつまで続けてるの? 弱いくせに』とかバカにされていましたから。それで日体大の相撲部に入ったら、全国から強豪が集まるので、自分なんか本当に最下層ですよ。そして弱いとトイレ掃除とかゴミ掃除を全部押しつけられるんです。

それが猛烈に悔しかったけど、監督は『だったら強くなればいいんだ』って教えてくれましてね。一念発起して、1日11時間くらい猛練習しました。その結果、3ヶ月後には4年生にも全員勝てるくらいまで強くなれたんです」

【後編はこちらから】Breaking Down参戦、千代大龍「相撲界に対する恩返しなんてない、ただ初めて他人のために」
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