小林薫、尾野真千子が出演するNHKの特集ドラマ『憶えのない殺人』がNHK BSで2月22日(土)夜9時にオンエアされる。2人の共演は2011年に放送された 連続テレビ小説『カーネーション』以来だという。
今作は認知症を患う元警官が殺人事件の犯人として疑われる中、真相を探ろうと奮闘する異色のヒューマン・ミステリー。“老い”や“介護”の問題にも踏み込んだ意欲作となっている。尾野真千子に直撃し、見所と意気込みを聞いた。(前後編の後編)

【別カット9点】事件の真犯人を必死に追いかける刑事・北嶺亜弓役の尾野真千子

──いまだに役者としてプロになりきれていないということでしたが、デビュー当時と同様にもがき続けているということですか?

尾野 そうですね。本当に私は自分のやりたいことをみんなにつき合ってもらっているような感覚があるんです。自分が感じたことを伝えて、それが「胸に響いた」とか「届いた」とか言われるとうれしくなる。だから自分は人に伝えるのがちょっとした“特技”なのかもって思うことはあります。その特技を活かして、もっと自分が感じたようにやってみよう。今後も、もっとこれができればいいな。これで生活できたらいいな。じゃあ自分なりにもっと頑張ってみようかな。……そんな感じなんです。
だから道半ばというか、夢は女優になることなんですよ。

──尾野さんにそれを言われちゃうと、他の女優さんの立つ瀬がないですよ。

尾野 うん、だから他のみなさんも結局は女優を目指しているんだと思う。女優って一口に言っても、いろんな女優像があるとは思うんですけどね。私が考えている女優というのは、いろんな役ができて、いろんなことが伝えられる人。そういう意味では、まだまだ全然だなって思います。

──今回のドラマ『憶えのない殺人』は“認知症”や“冤罪”など様々なテーマが内包されています。この作品を通じて、どういったことを感じてほしいですか?

尾野 「このドラマを観ることで認知症のことを考えてほしい」とか「もっと認知症を理解してほしい」とか、そういう考えはまったくないんです。もちろん大事なテーマだとは思います。お年寄りが増えていく中で、これからさらに切実な問題になるでしょうし。でも、だからといって「認知症の人を大切にしましょう」とか自分で声高にメッセージを叫ぶことはない。「身近にそういう人たちがいるんだ」という事実を伝えることしか私はできない。
結局、自分自身が今回のテーマになっている認知症のようなことを考えなくちゃいけない立場になっているのかなぁ。人に伝える前に、まず自分自身が考えなくちゃいけないということですね。

──難しい題材を扱う作品に出演する機会が多いように感じます。

尾野 楽しいですよ。やりがいがあると思います。でも、難しいから撮影に入る前はすごく気が滅入るんですけどね。「重いなぁ。私だってコメディとかやりたいのに……」とか考えたりして。でも私ができるのはコメディではないので、やっぱり自分にできることで伝えていくしかないですね。難しいテーマを扱った作品に出ると、親孝行にもなりますし。

──親孝行?

尾野 はい。深いテーマの作品に出ると、なんかしっかりした女優さんに見えるかなって(笑)。
そういうことのひとつひとつがちょっとした親孝行に繋がるんですよね。

──親孝行というのは、いつから意識していたんですか?

尾野 ずっと前からですね。この仕事を始めたときから「親孝行しなきゃ」というのはいつも思っていて……。自分だけ好きなことをやらせてもらっていましたし。親が作品を観て、感想を言ってくれることもあるんですよ。昔は「まだ芽が出ないのか?」とかよく言われていたんですけど、最近は「今度のはいつ公開するんだ?」とか「ポスターはないのか?」とか言い始めるようになったから、少しは認めてくれるようになったのかなと思っています。本当に昔は「女優なんて……」とか「いつ帰ってくるんだ?」とかマイナスなことばかり言われていたんですよ。

──朝ドラ『カーネーション』での、父親・善作との関係を彷彿とさせますね。

尾野 でも、ああいうお父さんではありましたね。厳しいし、今でも怖いくらいですから。女優になりたいと言った時も、2年やってみて芽が出なかったら帰ってきなさいと言われていました。でも東京に出る時は沢山援助してもらいました。


──“家族”というのも『憶えのない殺人』のテーマではありますよね。尾野さんにとって理想の家族とは?

尾野 やっぱり自分の育った家庭が理想の家族だったと今でも思います。自分のお父さんとお母さんみたいな両親でよかったなって感謝していますし。両親を見ていると感じるんですよ、こんな人たちが多かったら平和なのになって。だから私たち姉妹が育ったような家庭を、自分でも作れたらいいですね。

おの・まちこ◎1981年11月4日、奈良県出身。中学3年生のとき、映画監督・河瀬直美の目に留まり『萌の朱雀』(97)のヒロインとしてデビュー。同作でシンガポール国際映画祭主演女優賞を受賞する。以降、多くの映画やドラマに出演。河瀬監督と再タッグを組んで主演を務めた『殯の森』(07)はカンヌ映画祭のグランプリに輝いた。その後も実力派として注目を集め、NHKの連続テレビ小説『カーネーション』(11)のヒロインを演じるなど八面六臂の活躍を続けている。

特集ドラマ「憶えのない殺人」
2月22日(土)【NHK BS】夜9時放送
<あらすじ> 東京郊外の駐在所勤務だった佐治英雄(小林薫)は十年前に退職し、今も同じ町内に暮らしていた。
ある日、北嶺亜弓(尾野真千子)という刑事が近所で起きた殺人事件の聞き込みに佐治を訪ねて来る。その事件の被害者は、かつて若い女性へのストーカー行為で佐治が逮捕した男だった。彼は服役後、今度はその女性を襲ってケガを負わせてしまった。佐治は自分がもっと注意していればと、そのことを今も深く後悔していた。 事件捜査を進める北嶺は、佐治が犯人であると思わせる物証に行き当たり、実直そうな彼が犯人ではないかと疑いを深めていく。自分が殺人犯だと疑われていることに気づいた佐治は、元警官の誇りにかけて無実を証明しようとするが、その一方で自分が犯人ではないかと疑い始める。なぜなら彼は認知症を患っているからだ。自分の無実を信じたい佐治と冷静に事件を追う北嶺の二人は、いつしか彼の心の迷宮に足を踏み入れていくことになる。

《 出 演 》 小林 薫 尾野真千子 橋本じゅん 松澤匠 鞘師里保 西村和泉 阿南敦子 佐藤誓 岡本篤 室井響 畦田ひとみ 村崎真彩 山形匠 横田真子 中越典子 螢 雪次朗 筒井真理子
《 作 》 大森美香
《 音 楽 》 河野 伸

【前編はこちら】尾野真千子「プロ意識は今も持ってないかも、少なくとも私の芝居はプロではないでしょうね」
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