【写真】コロナ禍がリアルに描かれた『おむすび』第23週【5点】
今回注目したいのは、病院で管理栄養士として働く結(橋本環奈)を支えた翔也(佐野勇斗)の存在だ。第114回、感染対策のために結が「大阪の家で一人で暮らす」と言い始め、翔也はしばし花(宮崎莉里沙)と聖人(北村有起哉)と神戸で三人暮らしをすることに。
母親がいなくなって寂しがる花と、医療機関で働く結を心配しているであろう聖人を前に、父として、夫としてどう立ち振る舞うべきか、翔也にも葛藤はあっただろう。だが翔也は結の決断を文句ひとつ言わず受け入れたのだった。
また、花が学校の男子に「お前の母ちゃん病院で働いてるから、コロナまみれだろ」と言われた一件は、疲労困憊状態の結に話すべきかどうか相当悩んだのではないだろうか。というのも、これまでの翔也はとにかく大事なことを言えない性格で、それが原因で結とすれ違ったことが度々あったからだ。
高校生の時、監督から注意されていたにも関わらず結の手作り弁当を食べ続けたことに始まり、結が考えた献立のカロリー不足を言いだせなかったこと、肩の不調を相談できずギリギリまで抱え込んでしまったこともあった。翔也は、結が阪神・淡路大震災で傷ついた姿を見てきたからこそ、結をこれ以上傷つけたくないと“言わない優しさ”を貫いていたのかもしれない。
しかし今回の翔也は、花が酷いことを言われて落ち込んでいると結に伝える決断をした。結は花に対する申し訳なさを感じたかもしれないが、翔也が“言う優しさ”を選択してくれたことで、距離は離れていても心の距離は離れずにすんだのだと思う。
そして、これまで結と翔也の関係を見守ってきたいち視聴者としてグッときたのが、大阪の家に駆けつけた翔也がドア越しに言った「結、ちゃんと飯食ってっか?」というセリフだ。一見、シンプルに結の体調を気遣う質問のように思えるのだが、これまで作中に何度も登場してきた「美味しいもの食べたら悲しいことちょっとは忘れられるけん」という結のセリフを思い出してみてほしい。
結と翔也の中で「美味しいものを食べる=元気」という共通認識があることを踏まえると、翔也の「ちゃんと飯食ってっか?」には、「元気か?大変な思いをしていないか?」という意味がより強く含まれていたのではないかと思うのだ。
もし翔也がストレートに「結、大丈夫か?」と聞いていたなら、恐らく結は「大丈夫だよ」と答えていただろう。「ちゃんと飯食ってっか?」という聞き方だったからこそ、結は「ううん」と本音を答えることができた。差し入れに手書きメモを付けた気遣いも含めて、翔也は結が発した言葉や結との思い出をとても大切にしていることが伝わってくる。「幸せにしてやりたい」ではなく「二人で幸せになる」と決めた二人だからこその温かいやりとりに、じんわりきたシーンであった。
また第115回、ようやく家族と再会できた結が花を抱きしめるシーンにも“翔也らしさ”が詰まっていた。翔也は、花を抱きしめ「ごめんね。よく頑張ったね」と涙する結に視線を送りながらも、自分自身はそこに交じろうとはしなかったのだ。
翔也も結とハグをしたり、話したいこともたくさんあっただろうが、まずは結が“母”として娘に向き合う時間を優先したのだろう。自分の感情や欲求よりも、周りの人の気持ちを尊重できる翔也の優しさを感じることができた。
「甲子園に行ったら米田結に告白する!」と天然丸だしの宣言をしたり、太極軒でロマンチックのかけらもないプロポーズをしたりと抜けていることも多かった翔也。だが実際は高校時代からずっと、人の気持ちに共感し、寄り添い、自分のことのように痛みを分け合える人で、結はそれが翔也の良さだと高校生ながらに気づいていたのだと思うと、二人はなかなか大人な恋愛をしていたのかもしれないと思ったりもする。
そんな翔也に“鬼怒川の河童”“福西のヨン様”に続いて、“朝ドラ屈指の良い夫”という肩書きも付け加えたいと、勝手に思い為す週末なのだった。
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