NHKで4月1日からスタートするドラマ10『しあわせは食べて寝て待て』(総合毎週火曜午後10時~)。水凪トリの漫画が原作で、桜井ユキ演じる主人公・麦巻さとこが薬膳料理と団地暮らしに癒やされ、自らを立て直していく姿を描く。
このドラマでキーパーソンとなる薬膳料理が得意なミステリアスな人物・羽白司を演じるのが宮沢氷魚だ。自身とも似ているという司の印象から、薬膳料理への興味、さらに過去の“逃亡エピソード”も明かしてくれた。

【別カット5点】薬膳料理が得意なミステリアスな人物・羽白司役の宮沢氷魚撮りおろしカット

ーー本日はよろしくお願いします。原作を読まれているということですが、演じる司の印象はどうでしたか。

宮沢 僕と結構近い感じがしています。基本的に笑顔というか、優しい空気感を彼はまとっている。自分で言うのもあれなんですけど、周りから僕も同じような事を言ってもらえるので、結構そっちタイプかなと思います(笑)。

だから役作りも、自分の持っているものを軸に、そこに司の持つミステリアスなところを加えようと思っています。生い立ちだったり謎の多い人物でもあって、そのあたりはまだ原作でも明かされていないので、そこは少し足していって僕なりの司像を作っています。

ーー宮沢さんは演技プランを事前にしっかりと準備していないと不安だ、と以前インタビューでおっしゃられていましたけれど、今回は準備はどうしているのでしょうか。

宮沢 もちろん原作も読んで準備はしましたけれど、この作品に関しては、作り込んでもたぶん生きてこないだろうなと思っていました。それよりも、その時の共演者みんなの空気感みたいなものが一番大事だと思って。
なので、ある程度必要なものは準備して、あとはもうその時の現場で生まれるもの、他の役者と掛け合いをした時に生まれたものを大事にしようかなと思ってやっています。

ーー原作の司は飄々とした、どこか掴みどころのないキャラクターなので、確かに作りすぎちゃうと違ってきてしまうかもしれませんね。

宮沢 そうなんですよね。そこは臨機応変に対応しないといけない。あと一つ言えるのは、「薬膳ではこの食材の効能はこうで」というような説明のセリフが多いんです。そこは、事前に頭に入れておかないと、流れるようには出てこないので。感情的な、普通の会話だったらそこまではないんですけど、薬膳については一つひとつ細かく説明するので、そこはちょっと意識してやっています。

ーーこの作品に出会う前から「薬膳」についてはどのくらいご存じでしたか。

宮沢 もちろん「薬膳」という存在は知っていました。でも勝手に挑戦しづらい、難しいイメージを持っていました。それが、この作品に出会ってからは、本当に身近なものでも十分にできることに気がついて。セリフの中にも薬膳はガチガチにやるものじゃなく、自分のペースでやりたい時にやるものだというものがあるんですけど、その通りだなと思って。


薬膳に限らず、何事も「やらなきゃいけない」となると結構つらいじゃないですか。やりたいからやるが続くと思うので。本当に自分のペースで、気づいた時にできればいいなっていう感じですね。

ーー作品を読んだり、事前の役作りの準備の中で薬膳について知ることで、今こういうものを食べているよ、というものはありますか。

宮沢 作品に鶏団子スープのシーンがあって。鶏団子スープ自体は作っていないんですけど、すったレンコンは喉にいいとあったので、今までレンコンを買ったことがなかったんですけど、スーパーに寄った時に買ってみたりしてます。しめじも免疫力が上がると書いてあるんですが「これを食べたら免疫力が上がるんだ」と考えながら食べると、なんだか免疫力が上がっているような気がします。

たぶん「食べる」という物理的な行動も大事だと思うんですけど、精神的な部分も大きくて。自分の体のためを思って食事をとる、生活をする。そう思うだけで、ちょっと健康的になった気がする。結果的になっていると思うんですよ。そういうところで自分的にはまだ気づけていないところもあると思うんですけれど、いい方向にはいっていると思います。


大きな変化はできていないんですけど、自分のライフスタイルというか生活習慣も、ちょっとずつ良くなっていっている。まず、そこに気づけたところが個人的には大きいなと思います。

ーー確かに。「薬膳」は劇的な効果ではなく、小さな積み重ねによる緩やかな変化ですもんね。

宮沢 はい。だから僕は今30歳なんですけど、この年齢でこの作品に出会えたことが大きくて。まだ身体的にはそこそこ若く元気で、あと数年はたぶん大丈夫なんですけれど、これが40歳、50歳となった時に、今やっていることが反映されていく。今から薬膳を意識してやっていくと、たぶん10年後、20年後に「あの頃からやっていて良かったな」って思う日が来ると思うんです。なので、すぐに結果が出なくても大事にしたいですね。

ーー役者さんの場合、今回のような連続ドラマの撮影となると体調が一番大事になりますね。

宮沢 そうなんですよ。自分が休むわけにもいかないですし。
スケジュール的には朝はめちゃくちゃ早く起きて、夜は遅い時間まで撮影していることもあるじゃないですか。不健康の極みだと思うんですよ(笑)。寝れないですし、食事も美味しいんですけれど、お弁当やコンビニのご飯になっちゃうし。その中で、いかに健康でいられるかっていうのも一つの大事な役者のスキルだと思うので。そういうところまで意識できると、さらにいい役者になれると思うんです。

どこか体に悪いところがあったとして、それを気にしながら演じるのと、健康体で何も気にせず演技に没頭できるのでは全然違うので。人間、体調が悪い日もあるじゃないですか。そういう日もなんとかやり遂げますけど、終わった時に後悔というか「もっと健康だったら、もっともっといいシーンになったかもしれないのに」って思うので。その部分は大事にしないといけないって思います。

ーー演じる司は掴みどころがないけど優しい人物です。

宮沢 そこがたぶん彼のいいところで。でも、ただ優しい人じゃない。
無責任なところもすごくあるし、自分が薬膳が好きだから、みんなに知ってほしいから、周りを見ずにバーっと喋っちゃうこともあるんですけど、司は司なりに過去に薬膳を勧めたことで抱えたトラウマがある。今まで生きてきた歩みでも、ちょっと謎なところもあるし全部が順風満帆ではなかったと思うので、乗り越えてきたこともたくさんあって。今は少し自分の人生の休憩をしている。

でもベースとして、誰かのために何かをしたいという思いはすごく強く持っている人だと思うので、鈴さんの健康を守ったり、団地に住んでいる皆さんにとって住みやすい環境を作りたいという思いがある。本当に人のことを考えられる、心優しい人だと思います。ただ、謎が多い。そこが彼のギャップというか、ある日、突然いなくなっちゃうんじゃないかという人物でもあるじゃないですか。

ーー確かに。「ムーミン」のスナフキンっぽいというか。司は過去に物凄く家族のことで責任を負っていて、その反動から自由でいたいというキャラでもあります。宮沢さんご自身は、そうした責任から逃れたいなと思うことはありますか。

宮沢 ありますよ。
すごくありますけど、なかなかね、そこに踏み出せない。踏み出すっていうことでもないのかもしれないですけれど。でも、僕は責任から逃げ出すこと自体は悪いことではないと思っていて。もちろん人に迷惑をかけないことが前提ですけれど。

たぶん、人それぞれには限界があると思うんですよ。「これ以上頑張れない」「これ以上人のことを思いやることはできない」とか。そういう時に逃げるという方法は別に悪いことではないと思っていて。ただ一番はそうなる前に、自分の心地いい場所を見つけて、そこで毎日を過ごせるのがいいなと思うんですけれども。でも、いいんじゃないですかね、逃げても。

ーー過去に逃げだしたくなった経験ってありますか? 目的地と真逆の方向に行く電車に乗ってみたり。

宮沢 この仕事を始めてからはないです。でも仕事を始める前、中学時代にはありました。中学は野球部だったんですけど、結構厳しいチームで。部活では僕ともう一人が坊主ではなかったんですが、野球部の合宿の時に監督に呼び出されたら、監督がバリカンを持っていて「今から坊主にするから」と言われて(苦笑)。

その時「あっ、無理かも」と思って。「ちょっとトイレに行ってきていいですか?」と監督に言って、そのまま合宿から逃げたんです。でも合宿は東北で行われていて、当時はお金もないし携帯電話もないから逃げられないんですよ(笑)。ちょっと外を歩き回ってはみたんですけど、どうにもできないから、また合宿所に戻ってベッドにこもってたんですね。

そうしたら先輩が来て「大丈夫か」と気遣ってくれて。ただ「監督が呼んでいるぞ」と聞いて、恐る恐る監督のところに言ったら「悪かった。そこまでだとは思わなかった」って謝ってくれて。それでなんとかなったんですが、もし都内とかにいたら逃げて、そのまま野球部はやめていたと思います。

ドラマ10 「しあわせは食べて寝て待て」
2025年4月1日(火)スタート〈全9話〉
総合 毎週火曜 夜10:00~10:45

【後編はこちら】宮沢氷魚、「何と戦えばいいのか不透明だとすごく辛い」薬膳が導く”自分のペース”で毎日生きていくこと
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