2025年度前期の連続テレビ小説『あんぱん』(NHK総合・月曜~土曜8時ほか)。4月21日(月)~25日(金)放送の第4週「なにをして生きるのか」では、入試に落ち、母と再び離れることになるなど、嵩(北村匠海)にとって苦しい一週間が描かれた。
今回は週タイトルを手掛かりに、嵩の心情や今後の展開を考えてみたい。

【写真】嵩(北村匠海)の苦しみが描かれた『あんぱん』第4週

第4週の週タイトル「なにをして生きるのか」は、言わずとしれた『アンパンマンのマーチ』の一節だ。ちなみに、第3週の週タイトルは「なんのために生まれて」。おそらく第3週と第4週はセットになっており、続く歌詞「こたえられないなんて そんなのはいやだ!」の流れを汲み、人生の“答え”を探す嵩の心情に寄り添ったものだろう。

子どもの嵩は、利発でどこか達観した視点を持っていたように思う。泣いたり怒ったりすることもなく、いつも冷静で、子どもらしくない子どもであった。成績優秀で首席を取ったこともあるというエピソードからも、非の打ち所がない(それゆえ御免与町では少し浮いた存在だった)少年だったといえる。

しかし、成長を重ねるうちに、嵩は徐々にナイーブになっていった。勉強はあまり好きになれず、夢中になれるのは漫画だけ。本来、好きなものがあるのは素晴らしいことのはずなのに、成績優秀な弟・千尋(中沢元紀)に引け目を感じてしまう。長く過ごした柳井家も、嵩にとって心から居心地の良い場所とは言い難かっただろう。

第4週で線路に寝転ぶシーンが二度も描かれたように、この頃の嵩は常に「死」を意識していたのかもしれない。
きっと、自分が「なんのために生まれて、なにをして生きるのか」をずっと自問自答し続けていたのだろう。自分を捨てた母・登美子(松嶋菜々子)のことも、完全には憎みきれず、母を喜ばせたい一心で受験に挑むなど、精神のバランスを崩していることがうかがえる。

幸い、伯父・寛(竹野内豊)漫画好きを肯定的に受け止めていたが、それでも嵩は「漫画を描いて暮らしていきたい」とは、口が裂けても言えなかった。

嵩の描く漫画には、たびたび“おさげ姿”の女の子が登場する。それはきっと、のぶ(今田美桜)をモチーフにしたキャラクターなのだろう。第19回に登場した漫画では、複数の女の子から「キャーキャー」ともてはやされる青年が、最後はおさげの女の子のおかげで“合格”を手にする…そんなストーリーが描かれていた。

嵩の「生きるよろこび」は、実はすぐ目の前にあるのに、当の本人はまだそれに気づけていない。そんな状況の中、続く第5週のタイトルは「人生は喜ばせごっこ」。これは、やなせたかしの言葉をまとめた書籍『やなせたかし 明日をひらく言葉』(PHP文庫)に収録されているフレーズだ。書籍の中で、やなせは「人は何が一番楽しいんだろう。何が一番うれしいんだろう。その答えが『よろこばせごっこ』だった」と語っている。


第20回で、ヤムおじさん(阿部サダヲ)に「自分のために生きろ」と言われた嵩。これから何を経て「人を喜ばせること」が自分の生きる道だと気づいていくのだろうか。新たに登場する同級生・辛島健太郎(高橋文哉)が、何かきっかけとなる“スパイス”を与えてくれるのかもしれない。

第5週から、のぶは女子師範学校の寮に入寮し、嵩との接点は減ってしまう。離れている間に二人の心境に変化はあるのか?恋愛模様も含めて、嵩の進む道を見守っていきたい。

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