【写真】綾野剛、柴咲コウ、亀梨和也、の豪華キャストが集結、映画『でっちあげ』場面カット【10点】
そして本作では、それを『ひみつ×戦士 ファントミラージュ!』のような子ども向け特撮から、任侠、ホラーまで幅広く手がける鬼才・三池崇史が映画化。社会派サスペンスに、彼らしい暴力性と演出の鋭さを加えた衝撃作となっている。
三池による容赦のない描写は、冒頭から全開だ。訴訟を起こした生徒の母・氷室律子(柴咲コウ)の視点で、教師・薮下誠一(綾野剛)の異常性が描き出される。しかしその映像は、律子の“虚言”によるものであることがすぐに明かされる。
だが本当に嘘だったのか? それとも、律子には本当にそう“見えていた”のか? その曖昧な認知のズレこそが、本作の重要な問いとなる。視点が変われば“事実”も変わる──その構造は、是枝裕和監督の『怪物』(2023)を彷彿とさせる。
人間は、それぞれ異なる視点でものを捉え、感じ、判断する。見えている世界が同じとは限らないからこそ、意見は食い違う。本作が投げかけるのは、「何をもって“真実”とするのか」という問いだ。法なのか、マスコミなのか、個人の信念なのか――。積極的にどちらにも寄り添わない中立的で冷ややかな視点は、まるで裁判そのもののようである。
たとえば“教師”と“母親”を比べたとき、世間は往々にして後者に同情しがちだ。母親の言うことのほうが「嘘なはずがない」と、無意識に信じてしまう。もしそこに、センセーショナルな報道やマスコミの脚色が加われば、その印象はさらに強化されていく。
そして、作られた“イメージ”がいつの間にか“事実”として流通し、正義感を帯びた議論が飛び交うようになる。芸能スキャンダルでもよく見られる構図だ。騒ぎが収まると、メディアは何事もなかったように撤退していく。その報道の“熱”の落差すら、どこかリアルに描かれている。
法律はときに、鋭利な刃物のように人を傷つける。しかし、その傷を癒やす責任までは負わない。なぜ律子は虚言を繰り返したのか――その背景は本作の構成からある程度推測できるものの、あくまでそれは観客の“想像”に過ぎない。
裁判とは、結局“真実”そのものを明らかにするものではなく、「そうだと思われること」を決定づける装置にすぎない。
果たして、家族が傷つきながらも裁判を続けることは“正義”なのか?そう自問しながら、日々を耐え抜ける人がどれほどいるだろうか。
本作で描かれるのは、決して他人事ではない。誰もが、自分の言動を完全にコントロールすることはできない以上、いつ加害者にも被害者にもなり得る。もしあなたが同じ状況に置かれたなら、法廷で闘うのか。それとも、傷を広げないために嘘でも非を認めるのか。どちらの選択も正解ではなく、他人がその是非を決めることはできない。
子どもの頃、きっと誰もがこう教えられたはずだ──「嘘をついてはいけない」と。だが今作を観終えたあとには、こう考えずにはいられない。「本当の意味での“嘘をつくな”とは、裁判で真実を証明するのがあまりに面倒だから、“そもそも嘘はつかない方がいい”という戒めなのではないか」と。
【ストーリー】
2003年、小学校教諭・薮下誠一(綾野剛)は、保護者・氷室律子(柴咲コウ)に児童・氷室拓翔への体罰で告発された。
【クレジット】
出演者:綾野剛、柴咲コウ、亀梨和也、大倉孝二、小澤征悦、髙嶋政宏、迫田孝也
安藤玉恵、美村里江、峯村リエ、東野絢香、飯田基祐、三浦綺羅、木村文乃、光石研 北村一輝、小林薫ほか
監督:三池崇史
原作:福田ますみ『でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』(新潮文庫刊)
脚本:森ハヤシ
制作プロダクション:東映東京撮影所 OLM 制作協力:楽映舎
配給:東映
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