<人生において大切なたったひとつのことは、「あなたの孤独は美しい」という事実>と綴り、世間から浮いてしまった時、無理やり集団に混ざろうとするのではなく、孤独を肯定して自分自身を失わずに生きていってほしいと語る彼女のインタビューを3回連載でお送りする。1回目はAVデビュー前の話。
処女作『あなたの孤独は美しい』の第一章では、“戸田真琴未満”の彼女の生い立ちが綴られる。19歳の時にAVデビュー作で処女を喪失するに至った理由も、もちろんその生い立ちとは切り離しては語れない。普通でないことを恐れず、自分の道を自分の歩幅で歩み続ける彼女が語る、過去のトラウマと向き合う方法と、マイノリティへのメッセージ……。
【写真】笑顔で取材に答える戸田真琴ほか、撮り下ろしカット【12点】
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──処女エッセイ『あなたの孤独は美しい』第一章では「小学生時代~劣等感のかたまり~」や「中学生時代~思春期の地獄~」など、戸田さんの生い立ちが綴られています。
戸田 私は生い立ちって人に話すものではないかなと思っているんですが、世の中に何かを伝えたいと思う時、どういう人が書いているかが分かった方が伝わりやすい、というか聞き入れるかどうかの判断材料になると思ったんです。だから一章でAV女優になるまでを書きました。
──母親が新興宗教の熱心な信者だった話や、その母の影響で処女童貞信仰を持っていたため、男性に告白されても恋愛に発展することはなかった話、そしていじめの話。かなりヘビーなエピソードも出てきますが、そのどれもが客観的に自分の中で消化されていて、トラウマにはなっていないと感じたのですが。
戸田 結局、トラウマって、それを植え付けた人の気持ちを理解できなかったり、分析しきれてなかったりするから、残っていくものだと思うんです。自分が理解できないもの、分からないものって怖いじゃないですか。
──その理由は例えば自己防衛用のようなもの?
戸田 それもあると思います。たとえば頭ごなしに怒鳴る男性っていますけど、その怒りの裏側には、悲しさだったり、寂しさだったり、恥をかきたくないという気持ちがあったりするんです。実際は弱々しい感情なのに、怒りでしか表現できないんですよね。それを真に受けて怒られっぱなしだと、ずっと相手のことを理解できない。この人は何が気に食わないんだろうって理解しようとさえすれば、だんだん相手のボロが出て来たりして、あまりトラウマにはならないんです。
──つまり相手のことを考えることが大事だと?
戸田 それは自分に対しても同じですね。抱えているトラウマに対して、何が自分は嫌なんだろう、今の状況で解決できることは何だろうと考えることで、ふんわりした絶望に負けなくなります。ハッキリ言うと、私は、絶望することって何の意味もないと思うんです。冷たい言葉のように聞こえますけど、絶望することって思考停止と一緒なんですよね。
──思考停止することは、ある意味、楽かもしれません。
戸田 安易に楽な方向に逃げたくない気持ちがあります。自分の人生に幾つも触れられないままの地雷が埋まっていると嫌じゃないですか。親と分かり合えなかったとか、いじめられたことがあるとか、負の遺産を抱えている人って、それを触れてはいけないものにしがちなんですよね。でも、ちょっと勇気をもって分析すると、意外と単純な爆弾だったりしますし、仕掛ける側がおかしかったのだなと改めて思えたりもします。

──分析することでトラウマにはならないと。
戸田 もしくは自分と相手にボタンの掛け違いがあったのかもしれないとか、視点を変えて考えてみたりもします。私は両親と折り合いのつかないことが多かったのですが、そもそもが人間として違うタイプ同士だったのだと解ると楽になりました。親子であっても親しい人であってもボタンの掛け違いが起きるのが人生だから、どこが掛け違っているんだろう、この掛け違いを直すのは話し合いでは無理だから距離を取って自立しようとか、様々な選択肢を考えてみる。
──学生時代からそういう考え方だったんですか?
戸田 学生時代、自分は周りと比べて「変」な側の人間なんだと思わされていました。本音を言うならば、「世の中にとって私は変だけど、私にとって私は普通」だと思っていて、それはどちらも事実なのだと思います。みんなと一緒になりたい気持ちはすごくありました。本気で一緒になりたいと思うならば、頑張れば擬態することだって可能だと思うんです。世に馴染めない特性を持っている人でも、無理矢理修正して、世の中に合わせることはできます。実際、私も自分にとっての普通と、みんなにとっての普通を使い分けてきました。
──『あなたの孤独は美しい』には学生時代のいじめの話も出てきます。
戸田 いじめというのは、自分がどこに属しているのか分かる瞬間です。私はいじめをする人に、「やめな」って一生懸命説明をするタイプでした。
──著書では、一般社会に馴染みきれない人たちの孤独を肯定したいと書かれていましたが、自分が少数派に所属していると思っている方たちにアドバイスはありますか?
戸田 自分がマイノリティだなって感覚は狭い世界にいるからこそ感じることで、世界単位で見渡すと、いろんなところに、いろんな人がいる。私はやめちゃいましたけど、ツイッターなどを見ると、自分と似ている人たちがたくさんいることが分かるようになった。SNSによってそういうことが可視化される時代なんですよね。同じタイプの人が日本にいなければ、他の国の言葉を学んで世界に行く選択肢もあるし、そうやって視野を広げていくと、少数派の人っていうのはたくさんいるんです。箱の中で困っているだけなのは、もったいないこと。仲間がいなかったら本気で探せばいるし、仲間がいなくても強くいられる強さが必要ならば、本、漫画、映画、いろんな価値観を、いろんな人が残しています。
──世界単位で自分と同じタイプの人とつながれるのはインターネットのいい一面かもしれません。
戸田 私自身、ネット上にあるものに救われることはたくさんありました。
※インタビューの第2回は3日(金)午前6時30分に公開予定です。

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