広瀬すずが主演を務める映画『遠い山なみの光』(9月5日公開)の衣装担当・高橋さやか氏と映画『国宝』の衣裳担当・小川久美子氏のトークイベントが実施された。

『遠い山なみの光』は、ノーベル文学賞受賞作家カズオ・イシグロ氏の長編デビュー作を、石川慶監督が映画化。
主演は広瀬すず、共演は二階堂ふみ吉田羊、カミラ・アイコ、松下洸平、三浦友和ら。舞台は、戦後間もない1950年代の長崎と、1980年代のイギリスで、時代と場所を超えて交錯する「記憶」を巡る秘密を紐解いていくヒューマンミステリーに仕上がっている。

8月28日、同作の衣装担当・高橋さやか氏と公開中の映画『国宝』の衣裳担当・小川久美子氏のトークイベントがブロードメディア・スタジオ試写室にて実施された。

『遠い山なみの光』では 1950年代の長崎と1980年代のイギリスを舞台に悦子(広瀬すず)と佐知子(二階堂ふみ)という対照的な二人の女性を、『国宝』では1960年代から平成にかけての時代の変遷とともに喜久雄(吉沢亮) と俊介(横浜流星)という生まれも育ちも異なる二人の青年を、それぞれ衣裳を通じてスクリーン上に再現してきた二人が、作品に込めた思いや工夫を語りあった。

『遠い山なみの光』について、「衣装」という観点でどのように見たか尋ねられた小川氏は「衣装の仕事をやっている人は、みんなやりなくなるような作品だなと思いました」と言い、「イギリスと長崎で衣装の使い方を分けていて、イギリスではリアルさのある衣装ですが、長崎は想像と記憶の世界で、もしかしたら嘘かもしれないと思わせるような作り方になっている。そこがすごく面白いと思いました」と感嘆した。

これを受け、高橋氏は「(小川氏の指摘が)本髄というか(笑)、イギリスパートで感じるざらつきとか湿度と、私が担当した長崎パートの戦後の描写は完全にタッチが違います。もちろん意識して作ったんですけれど、あらゆる人が(過去を)振り返ったときの記憶を美化するようなことを、衣装でも誇張して表現した部分がありました」と打ち明け、「とはいえ、こんなにはっきりと指摘されると、ちゃんと受け取ってもらえたんだなと思えてよかったです(笑)」と微笑んだ。

どのくらいの衣装を(既製品ではなく)イチから製作したのか聞かれた高橋氏は「悦子、佐知子は8~9割は作っています」と告白すると、「普段も好ましいものがなければ年代に関わらず作るんですけど、物語の舞台となる戦後の1950年代は洋裁がブームだったということもあって、すごくオシャレはしたいのに、憧れる服を買うことはできないし、そもそも売ってもいない。だけど『装苑』さんといった当時の雑誌で展開されている作図や絵を真似して作っていた方が多かったので、今回はリアルに作ったほうが深みが出ていいんじゃないかなと思って作らせていただきました」と明かした。

一方、『国宝』の衣装製作について小川氏は「ないものはすべて作っていきました。現代モノって意外と(既製品で)思ったものがあることもありますが、例えば"形はいいんだけど色がね"とか、そういうこともあるので結構作りますね」と言い、製作のプロセスについては「私の場合はまずデザイン画とイメージ画を描いて、そのイメージに似たものがあれば既製品で、なければ作るって感じです」とコメント。
現代モノの作品で衣装のイメージが湧かない際は街に出るそうで「街に出ると"これだ"ってこともあります。服が呼ぶんですよね」とエピソードを明かすと、高橋氏も「全く同じです」と共感を示した。

最後に、映画における衣装の役割について聞かれると、小川氏は「映画はすべて作りものの世界で、いくらリアルに見えても実は作りもので、話の中のキャラクターの性格も映画を見ていく中で感じていくことだと思います。そういう意味で(衣装は)"作りもの"と"感じさせたいもの"を誘導していくものだと思うんですね。画面で黒いところにいるのと、白いところにいるのでは、同じ衣装でも受ける印象が違うように、画面の中でどう成立するかとか、考えることが山ほどあって、その中でこれにしようと考えています」と言葉に力を込め、高橋氏は「背景説明ですかね。今回の原作者にちなんで言うと、信じすぎてはいけない背景説明(笑)。そのまま受け取っていただきたいこともあるけど、そこに全然違った意味が含まれていることもあると思うので、背景説明かなと思います」と表現した。

(C)『遠い山なみの光』製作委員会

【編集部MEMO】
原作者、エグゼクティブ・プロデューサーのカズオ・イシグロは、本作で描かれる長崎県の出身で、幼年期に渡英したのち、1983年にイギリス国籍を取得。2017年にノーベル文学賞を受賞している。本作以外にも映画化された作品は数多く、『日の名残り』『上海の伯爵夫人』『わたしを離さないで』『生きる LIVING』は、日本でも公開されている。
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