中田英寿 写真提供: Gettyimages

試合がうまく進んでいない際に、ワンプレーで流れを変えるエースに頼るのは不思議な話ではない。監督にとって、クラブやサポーターの想いを背負うそういった選手たちをベンチに下げるというのは難しい。

たとえコンディション不良を抱えていたとしてもだ。

しかし、エースをベンチに下げたことが試合の流れを変えるきっかけとなった試合も多くあるのだ。今回は名将たちの勇気ある名采配をご紹介する。難しい状況の中で、彼らの判断は適切だった。

トッティと中田を交代…試合を変えた名将たちの勇気ある名采配
フランチェスコ・トッティ 写真提供: Gettyimages

ファビオ・カペッロ

交代:トッティ→中田

2000/2001シーズンのセリエA第29節。シーズン終了まで残り6戦のところで、優勝争い繰り広げていたローマとユベントスの直接対戦が実現した。カペッロ監督のローマが首位に立ち、ユベントスは勝ち点6差でランキング2位。中田英寿はベンチスタートだったが、この試合における活躍でローマの歴史に残ることとなる。

ユベントスは試合開始直後からハングリー精神を見せ、前半終了時点で2点リードを奪っていた。ローマにとって難しい状況の中、カペッロ監督はローマのエースであるトッティに代えて中田を起用。彼は一人で流れを変えてしまった。

まずはエリア外からの見事なロングシュートで1点を返すと、アディショナルタイムに放った強烈なシュートが貴重な同点弾に繋がった。

試合は引き分けで終了し、カペッロ監督やローマの選手は中田を抱きしめ大喜び。

ローマはこのあとも首位の座を守り抜き、2000/2001年シーズンを優勝で飾った。

トッティと中田を交代…試合を変えた名将たちの勇気ある名采配
ディエゴ・シメオネ 写真提供: Gettyimages

監督:ディエゴ・シメオネ

交代:D・コスタ→ジョレンテ

2019/2020シーズンのチャンピオンズリーグ(CL)決勝ラウンド、シメオネ監督のアトレティコ・マドリードはリバプールのホームスタジアムで準々決勝をかけた2戦目を戦った。

ホームで勝利を掴んだものの、2ndレグのイングランドでは思い通りのプレーができずに追い込まれていたアトレティコ。前半43分にリバプールがゴールを奪い、アグリゲートスコアでタイに並ばれてしまった。

後半に入ってから、シメオネは思い切った選択をした。チームの中心選手であったジエゴ・コスタを下げ、代わりにフェルナンド・ジョレンテを起用した。サポーターは驚いたはずだ。D・コスタ本人もベンチで悔しさを隠すことができなかった。

しかし、結果はシメオネの判断が正しかったことを示したのだ。ジョレンテは2得点を挙げる大活躍。アトレティコを準々決勝へと導いた。

トッティと中田を交代…試合を変えた名将たちの勇気ある名采配
クリスティアーノ・ロナウド 写真提供:Gettyimages

マウリツィオ・サッリ

交代:C・ロナウド→ディバラ

エースと監督の関係は非常に複雑なもの。その選手がサッカー界最強と言われている選手、クリスティアーノ・ロナウドなら尚更だ。しかし、ユベントスのサッリ監督が取ったエースの交代という選択が、試合の流れを変える重要な采配となったのだ。

2019年11月11日に行われたセリエAのミラン戦。後半開始の10分後サッリはC・ロナウドを下げ、代わりにディバラを出場させた。C・ロナウドはこれまでになかった態度を見せた。交代された際にはベンチに戻らずにすぐロッカールームに戻えい、試合が終わる3分前にスタジアムを離れたのだ。

結果的にはディバラはユベントスを勝利に導くゴールを決め、サッリの判断が正しかったことを示した。しかし、その「C・ロナウドらしくない」行動が話題となり、サッリがクビになるではないかという噂が流れた。しかし、チーム内のヒエラルキーは正常に機能していたようだ。

トッティと中田を交代…試合を変えた名将たちの勇気ある名采配
ロベルト・バッジョ 写真提供:Gettyimages

アリゴ・サッキ

交代:バッジョ→マルケジャーニ

1994年にアメリカで行われたワールドカップのグループステージ第2戦。ノルウェー戦で起用されたイタリア代表GKジャンルカ・パリュウカはレッドカードで退場となった。

その後に起きた仰天の出来事を、世界中のサポーターは忘れられないだろう。 サッキは第二ゴールキーパーであったマルケジャーニを…代表エースのロベルト・バッジョと交代させたのだ。「サッキはイカレている」と叫んだ人も少なくないはずだ。

退場となったパリュウカは当時のことをこう語る。

「我々選手にとっても明らかにおかしい交代だった。自分のせいでイタリアがグループステージを突破できないと思い、とても悔しかった」

しかし、その後イタリア代表は1得点を挙げ、ノルウェー代表の壁を破った。そしてそのゴールを決めたのはもう1人のバッジョ、ディノだったのだ。

トッティと中田を交代…試合を変えた名将たちの勇気ある名采配
ダニエレ・デ・ロッシ 写真提供:Getty Images

クラウディオ・ラニエリ

交代:トッティ、デ・ロッシ→メネス、タッディ

選手交代に対する「勇気賞」が存在するのならば、それはラニエリに送られるべきだろう。彼は大事なローマダービーで1人ではなく、2人のバンディエラ(クラブを象徴する選手)を同時に交代する勇気を見せたのだから。

2010年4月19日に行われたローマ対ラツィオ。満席だったスタディオ・オリンピコでビアンコチェレスティ(ラツィオの愛称)は先制に成功。試合をリードしていた。

ローマは大事なダービーを勝利で終えるために、まずは冷静さを取り戻す必要があった。そして、最もダービーのプレッシャーを感じ熱くなっていたのは、チームの2人の柱であるフランチェスコ・トッティとダニエレ・デ・ロッシだったのだ。

ラニエリはリスクを取り、スタジアムのブーイングを浴びながら2人をジェレミー・メネスとロドリゴ・タッデイに交代。結果的にローマは2-1で勝利を収めた。

しかし、試合後でもその選択を許さなかったクラブ関係者やサポーターは多かったという。

ラニエリはそのダービーについてこう語っている。

「すごく苦しい判断だった。2人を下げて負けでもすれば、2度とオリンピコに立つことはできなかっただろう。クビになることを覚悟していた」

編集部おすすめ