勝って兜の緒を締めた!東京オリンピック2020(東京五輪)の開幕を翌日に控えた7月22日、男子サッカー競技がスタートした。U-24日本代表は、大会直前に新型コロナウイルス感染症の陽性者を出して苦しんでいた南アフリカを1-0で下し、緊張感の高まる大会初戦で貴重な勝点3を掴んだ。

南アフリカは選手にコロナ感染者が出て、この日はベンチ入りメンバー18名の枠さえ、1つ埋めることができなかった。リードを許して以降も結局2人しか選手交代を行えない苦しい台所事情の相手に対して、日本は1点しか奪えず。すでにフル代表デビューし、スペインのラ・リーガ1部で2年間もプレーしているMF久保建英による個人技で1得点が挙げられただけだ、などなど、全体にケチをつけられる部分は多かったかもしれない。

久保建英や小野伸二で測る“世界との距離”で自信を掴め!

久保の決勝点はポジショナルプレーの見本

しかし得点の場面は、ペナルティエリアに向かって前を向いた状態の久保が1対1を仕掛けられる状況を作ってボールを提供できていた。これは決して個人技だけで成立するものではない。それこそスペインで称賛されているような、選手の立ち位置で優位性を生み出す「ポジショナルプレー」の要素をふんだんに使った組み立てと崩しが見られた。

同サイドで数的優位を作り、個人技を持つ選手を逆サイドで構えさせ、敢えて孤立させた状況を作る「アイソレーション」である。ポジショナルプレーの概念で喩えると「数的優位」と、久保という個人技を持つ選手を活かす「個の優位」、1対1を前向きの状態で作り出すことで相手DFを恐怖に陥れる「位置的優位」など、少なくとも3つの優位性を活かしたポジショナルプレーの見本となる組織的な攻撃だった。

そして、南アフリカの4本に対して13本のシュートを放ちながら1得点に終わったが、それが逆にこの初戦独特の難しい状況で最後まで集中力が途切れなかった要因でもある。2点目、3点目が奪えていたら集中力も散漫になっていたかもしれない。

まずは勝って兜の緒を締めることができたことが何よりも重要である。

久保建英や小野伸二で測る“世界との距離”で自信を掴め!

期待の裏返し?10代で批判されている久保建英

とはいえ、東京五輪世代のU-24日本代表にとって、久保建英が特別な存在であるのは間違いない。また、未だ20歳である久保は1つ下の世代で飛び級選手でもある。

久保は2011年8月に10歳でスペインのバルセロナの下部組織に入団し、現在はそのトップチームでプレーするFWアンス・ファティや東京五輪にも参加しているスペイン代表DFエリック・ガルシアといった同世代の逸材と約4年間プレーした。

バルセロナがFIFAから18歳未満の外国人選手獲得に関する違反で公式戦出場停止処分を受け続けていたために帰国を余儀なくされたが、日本のFC東京に加入後も15歳5カ月1日でJリーグデビューを飾るなど、数々の最年少記録を打ち立てて来た。

17歳で迎えた2019シーズンにはFC東京のトップチームでも主力に定着。J1で約半年間プレーしたが、13試合出場4ゴール3アシストという数字以上の存在感を示して首位を快走するチームの、そしてJリーグの顔として躍動していた。

そしてスペインでプロ契約の締結が可能になる18歳の誕生日を迎えた2019年6月、同時期にフル代表の日本代表デビューも飾っていた久保は、バルセロナのライバルである「20世紀最高のクラブ」レアル・マドリードへの移籍を決めた。

その後「白い巨人」(マドリード呼称、エル・ブランコ)では外国籍登録枠や欧州トップリーグでの実績が皆無なため、久保はマジョルカやビジャレアル、ヘタフェへと2年間で3クラブへレンタル移籍して経験を積んでおり、その成長曲線は確かに順調ではないかもしれない。

しかし、20歳にも満たない段階からラ・リーガ1部クラブで試合に出られないことを批判されている事が期待の証明でもある。18歳の時点でバルセロナとレアル・マドリードというスペインの2強の両方に籍を置くような日本人選手は他にはいない。何ならスペイン人にもいない。

久保建英や小野伸二で測る“世界との距離”で自信を掴め!

久保建英と小野伸二で測る世界との差

2019年の5月から6月にかけて開催された「2019 FIFA U-20W杯ポーランド大会」は、1試合9ゴールを奪ったことで現ノルウェー代表FWアーリング・ハーランド(ボルシア・ドルトムント)が“発見”された大会である。「久保世代」と称されたU-20日本代表も参戦したが、チームの中心選手だった久保は同時期に開催されたコパ・アメリカ2019に参戦するフル代表へ召集されたため、U-20W杯は不参加となった。(2017年に同大会には出場している)

久保を欠いたU-20日本代表はグループステージを1勝2分無敗の2位で勝ち抜けたが、ラウンド16でアジアのライバルである韓国に敗れた。韓国はスペインのバレンシアの下部組織で育てられ、久保より先にスペインの古豪でラ・リーガ1部にデビューしていたMFイ・ガンインがチームを牽引。

2ゴール4アシストの活躍で韓国を準優勝へ導き、自身は大会MVPを受賞していた。

しかし、ラウンド16で対戦したU-20日本代表の主将MF齊藤未月(現FCルビン・カザン)は、大会後に「イ・ガンインってやっぱり凄かったのですか?」と問われると、「確かに凄く巧い選手だったと思いますが『建英の方が凄くない?』とチーム内では言っていました」と答えていた。

その時に思い出したことがある。1999年に同じU-20W杯へと名称が変更される前の「FIFA U20ワールドユース選手権ナイジェリア大会」で準優勝をした当時のU-20日本代表である。決勝では司令塔シャビ・エルナンデスを擁するスペインに0-4と大敗したものの、日本はFWピーター・クラウチやDFアシュリー・コールがいたイングランドや、DFラファエル・マルケスがいたメキシコ、FWディエゴ・フォルランを擁したウルグアイといった強豪国を次々と撃破していった。当時のチームの主将を務めていた小野伸二(現北海道コンサドーレ札幌)が前年に高卒1年目ながらフランスW杯のメンバー入りを果たし、第3戦のジャマイカ戦で18歳にしてW杯デビューを果たしていた。この大会でも本山雅志と共にベストイレブンに選出されている。

当時の準優勝メンバーであるFW播戸竜二らは、強豪国を相手にしても「伸二より巧いヤツは誰もおらんよな?ウチにはW杯に出たことがある選手がいるんやから」とチーム内で言い合っていたと打ち明けていた。久保や小野を世界との距離を測る物差しとして、自分たちが世界とも対等に渡り合える自信を掴んでいたのである。もちろん、2019年当時の韓国の選手たちもイ・ガンインを同様に見て、自分達の自信にしていたことだろう。

東京五輪を戦うU-24日本代表が第2戦で迎えるメキシコにはディエゴ・ライネスという21歳の左利きの”鬼才”がいる。僅か16歳でメキシコリーグの強豪クラブ・アメリカでプロデビューした超逸材で、18歳でデビューしたフル代表でもすでに14試合3得点の実績を持つ。

しかし、彼は18歳だった2019年1月にスペインの中堅クラブであるレアル・ベティスに1700万ユーロ(約21億円)もの高額な移籍金で加入して以降、出場機会に恵まれずに伸び悩んでいる。ラ・リーガ1部では2年半で48試合に出場したが、先発出場は僅かに13試合でフル出場は1試合のみ。そして、未だ無得点が続いている。

一方、久保はラ・リーガ1部の2年間で66試合出場5得点。先発出場は33試合でフル出場は16。1歳年上のライネスより半年あとにラ・リーガに参戦しているが、軒並みライネスを上回っている。

U-24日本代表のメンバーには、そんな久保と共に世界の舞台で自信を持って戦ってもらいたい!

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