東京五輪が終わり、中断されていた明治安田生命J1とJ2が8月9日よりリーグを再開。そして28日より、J3リーグの後半戦がスタートする。
今季2021シーズンJ3前半戦を首位で折り返したのはカターレ富山。同じ勝点26で2位だった福島ユナイテッドは、5月16日第8節のヴァンラーレ八戸戦で2-0で勝利するも「新型コロナウイルスの指定公式検査において陰性判定を得ていない選手を出場させた」ことにより「0-3の敗戦扱い」とする処分を受け、現在は6位に後退した。首位から6位福島までの勝点差は僅かに3。8位の長野パルセイロも首位と勝点5差。全15チーム中8チームが2ゲーム差でひしめき合う大混戦の中、J2昇格枠の2位以内を争っている(ただし、福島、宮崎、八戸は現段階でJ2ライセンスを取得していない)。
昨季のJ3では、ブラウブリッツ秋田が開幕から28戦無敗のまま独走優勝を決め大きなインパクトを残した。秋田はボール支配率やパス精度といったスタッツがリーグ内で最も低く、自陣でのクリアの回数が最も多い戦い方で「ボールを持たない」尖ったコンセプトを示した。昨季2位でクラブ史上初のJ2昇格を勝ち取ったSC相模原にも同じ傾向が見えていたこともあり「J3の勝ち方」が示された印象がある。しかし、2014年から創設されたJ3リーグ自体は、昨季限りでガンバ大阪とセレッソ大阪のU-23チームの参戦が終了し、今季からは完全なトップチームのみによる新時代を迎えている。

昇格請負人や個性派、注目のJ3の名将たち
J3でプレーする選手たちの目標は「昇格」である。そこには「個人昇格」も含まれる。今夏の中断期間中にも、福島でJ3得点ランキング2位の8ゴールを挙げていたFWイスマイラが京都サンガへ、長野のMF藤山智史は秋田へ、八戸のFW黒石貴哉が水戸ホーリーホックへとJ2クラブへのステップアップを遂げた。イスマイラは京都でのJ2デビュー戦で決勝点も挙げるなど、J3の可能性を証明。
選手の流出が激しいJ3だからこそ、指揮官の存在が目をひく。降格制度のないJ3は、監督にとって戦術的に冒険がしやすいリーグでもある。
現在首位を走る富山の石崎信弘監督や、2019シーズンにギラヴァンツ北九州をJ3優勝&J2昇格に導いた小林伸二監督は、複数のJ2クラブでJ1昇格を勝ち取った「昇格請負人」と呼ばれる経験豊富なベテラン監督だ。現在60歳であるロアッソ熊本の大木武監督は、ヴァンフォーレ甲府を「クローズ」と呼ばれる独自のスタイルでJ1昇格へ導いた手腕を高く評価されている。また、鹿児島の上野展裕新監督や、ガイナーレ鳥取の金鍾成監督も攻撃的なサッカーでJ3を制した経験を持つ。
一方、アスルクラロ沼津の今井雅隆監督や、FC今治の布啓一郎監督のような育成年代の名将がJクラブの指揮を執る姿も感慨深い。2019年にJリーグ史上最年少の34歳で指揮官に就任し3年目を迎えている、Y.S.C.C.横浜のシュタルフ悠紀リヒャルト監督の存在もリーグに彩りを与えている。

得点王とアシスト王が揃う岐阜
そんなJ3の後半戦を2位で迎えるFC岐阜に注目したい。2019シーズンJ2最下位となった岐阜は、昨季初のJ3でJ2復帰を狙ったものの、中盤戦までの取りこぼしが響いて6位で終えた。
迎えた今季は開幕戦こそスコアレスで引き分けたものの、第2節からの3連勝で首位につける。その後、やや失速傾向が見られたものの、前半戦を首位と勝点1差の2位で折り返した。「首位グループに入れている」と、指揮を執る安間貴義監督も想定内の結果に言及。
岐阜には現在得点ランキングトップの9得点を挙げているFW川西翔太と、リーグ最多タイの6アシストを記録しているMF吉濱遼平が揃う。一方、前半戦はボール支配率などがリーグ最低だった点など攻撃のバリエーションが限られることにファン・サポーターは不満を募らせているようだ。しかしこれは、しっかりとした土台の構築に終始していたためだと思われる。
ポルトガル代表のレジェンドであり、スペインの2強であるバルセロナとレアル・マドリードの双方でプレーしたルイス・フィーゴ氏は「チーム作りの基本は家を建てるのと同じ。しっかりとした土台が重要なんだ。中国のサッカーは屋根から作っている。だから豪華で見栄えが良くても直ぐに壊れてしまうんだ」と、ウィットに飛んだジョークと共にしっかりとした土台を作ることの大切さを言葉にしていた。
就任1年目の安間監督が富山を指揮していた頃から採用していた[3-1-4-1-1]という独特なシステムを組み込んでいる今季の岐阜。MF吉濱や元日本代表MF本田拓也、GK桐畑和繁、DF舩津徹也、DF三ッ田啓希など、主力の半数が新加入選手ということもあり、まずは守備組織の構築からチーム作りを始めるのは至極真っ当なステップと言えるだろう。

岐阜は元日本代表MF柏木陽介をどう活かす?
前半戦はしっかりとした土台作りに終始した安間監督にとって、開幕直後に浦和レッズからの加入が発表されたMF柏木陽介をどう活かすのかが、後半戦のキーポイントになるのではないか。
背番号42の元日本代表MF柏木は、コンディション調整もあって岐阜でのデビューは遅れたが、初先発となった第10節の福島戦で初ゴール初アシストを記録するなど、J1や国際舞台で披露して来た極上のクオリティを見せつけた。第12節の今治戦の序盤で負傷交代したが、すでに戦列復帰を果たしている。
前半戦の岐阜は両サイドのウイングバック(WB)の位置が低くなることが多く、これが守備の安定に繋がると同時に、攻撃面では前線のサポートに枚数が割けない状態に陥っていた。後半戦はコンディション万全の柏木が加わることで中盤には“タメ”が生まれ、両WBの押し上げが可能になるだろう。前半戦で武器としていたゴールへ直結する速攻やセットプレーだけでなく、中断期間中には遅攻でも相手を崩せるようにパスワークの改善にも努め、より勝てるチームに仕上げてくるだろう。
そんな岐阜にあって前半戦だけで9ゴールを挙げた川西は、攻撃面のみならず前線からの果敢なプレスで守備のスイッチを入れるなど、攻守にチームを牽引する大黒柱的存在だ。当メディアでは、J3得点ランキングトップを走る川西の独占インタビューも掲載。得点量産の秘密や現在のチーム状況はもちろん、川西自身のサッカー人生についても伺った。
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本田と柏木という日本代表経験のある2人のMFが戦線復帰する後半戦、岐阜にはJ3優勝の期待がかかる。絶好調の川西の活躍と共に楽しみにしたい。