MIZUHO BLUE DREAM MATCH 2024(サッカー国際親善試合)が10月26日に行われ、なでしこジャパンこと日本女子代表が韓国女子代表に4-0で勝利した。

最終的に大勝を収めたものの、試合開始から約30分間は攻撃が停滞していたなでしこジャパン。
特に自陣後方からのパス回し(ビルドアップ)の安定感が今ひとつだった。

なでしこジャパンのビルドアップが淀んだ原因は何か。ここでは国立競技場(東京都新宿区)にて行われた韓国戦を振り返るとともに、この点を中心に論評していく。現地取材で得た、南萌華と守屋都弥の両DFの試合後コメントも併せて紹介したい。

なでしこジャパン、韓国戦大勝も不安材料あり。パリ五輪と同じ問題発生【現地取材】

気がかりだった守屋の立ち位置

この試合における両チームの基本布陣は、なでしこジャパンが[4-4-2]で韓国代表が[4-2-3-1]。なでしこジャパンはGK山下杏也加、及びDF熊谷紗希と南の2センターバックを起点にビルドアップを試みた。

気がかりだったのは、なでしこジャパンの右サイドバック守屋のビルドアップ時の立ち位置が効果的でなかったことだ。特に前半は守屋が味方センターバック付近、且つ自陣タッチライン際や相手サイドハーフの手前に立つ場面がちらほら。それゆえ韓国代表に前方のパスコースを塞がれ、これが右サイドからの攻撃の迫力不足に繋がっていた。

なでしこジャパン、韓国戦大勝も不安材料あり。パリ五輪と同じ問題発生【現地取材】

守屋が明かした意図は

韓国戦終了後、守屋はミックスゾーンにて筆者の取材に応じ、前述の立ち位置の意図や感想を明かしてくれている。やはり、自身がボールを受けた後のパスの出しどころに困っていたようだ。

ー守屋選手が低い位置でボールを受けるケースがありました。このプレーにどんな意図があったのか、そして低い位置のタッチライン際でボールを受けた後のビジョンをお伺いしたいです。

「味方センターバックが(横に)開きすぎるのが気になったので、自分が下がってサイドにパスを出したほうがリスク管理的に良いと思ったんですけど、それで後ろが重たく(後方になでしこジャパンの選手が集まりすぎる状態に)なってしまいました。
なので前半の途中から高い位置をとることを意識しました」

ーサイドバックの守屋選手が低い位置のタッチライン際でボールを受けると、その前にいる味方のサイドハーフに相手サイドバックが寄せてくるので、パス回しが手詰まりになる感じでしたよね。

「そうですね。(右サイドハーフのMF藤野)あおばにパスを出しづらかったので、あおばが(タッチライン際から)内側に入って、自分が高い位置をとるようにしました」

ー前半の途中から藤野選手と清家貴子選手のポジションが入れ替わり、清家選手が右サイドハーフになりました。守屋選手が低い位置でボールを受けた場合、(俊足の)清家選手を走らせたうえで、相手サイドバックの背後へロングボールを送るという攻撃をもう少し狙っても良かったと思いました。これについてどう感じていらっしゃいますか。

「そうですね。奥に(パスを)繋げても良かったかなと思うんですけど、韓国があまりプレスをかけてこなくて、(守屋自身に)余裕もあったので、慌てる必要は無いのかなと思っていました」

なでしこジャパン、韓国戦大勝も不安材料あり。パリ五輪と同じ問題発生【現地取材】

パリ五輪スペイン戦でも同じ問題が

今夏に行われたパリ2024オリンピック(パリ五輪)のグループステージ第1節、スペイン女子代表戦でも今回の韓国戦と同じような問題が起きていた。

なでしこジャパンはスペイン戦において、[4-4-2]と[3-4-2-1](自陣撤退時[5-4-1])の2つの布陣を使い分け。この試合でも自陣後方から丁寧にパスを繋ぐ姿勢が窺えたが、サイドバックやウイングバックが低い立ち位置且つタッチライン際でボールを受けては相手のプレスを浴び、苦し紛れにパスを出す場面が多かった。

サイドバックやウイングバックが自陣タッチライン際でボールを受けた場合、この時点で左右どちらかのパスコースが消えるため、パスを出せる角度が180度方向に限られる。スペイン戦の前半は古賀塔子と清水梨紗の両DF(両サイドバック)、後半に右ウイングバックを務めた清水がこの位置でボールを受けたため、なでしこジャパンのパスワークが手詰まりになっていた。

パリ五輪で浮き彫りになった攻撃配置の悪さを、今回の韓国戦でも解決しきれなかったなでしこジャパン。4バックを基軸にビルドアップするのであれば、両サイドバックがタッチライン際から内側へ立ち位置を移し、中央とサイドどちらへもパスを出せる状況を作る。
もしくは味方センターバックとサイドバック間へボランチの選手を降ろし、ビルドアップに関わらせる場面を増やす。FIFA女子ワールドカップ2027、そして2028年に開催予定のロサンゼルス五輪でメダルを獲得するためには、これらを突き詰める必要があるだろう。

なでしこジャパン、韓国戦大勝も不安材料あり。パリ五輪と同じ問題発生【現地取材】

効果的だった山下と北川らのプレー

効果的な攻撃パターンを探るのに時間を要したが、前半の途中からDF北川ひかる(左サイドバック)がタッチライン際から内側へ立ち位置を移し、ビルドアップに関与。ここでボールを受けた北川が内側にも外側にもパスを出せる状況となり、なでしこジャパンの左サイドからの攻撃の威力が増した。

GK山下から繰り出される相手最終ライン背後へのロングボール、及びセンターバック熊谷から左サイドバック北川へのロングパスも韓国にとって脅威に。長谷川唯と長野風花の両MFも、[4-4-2]の守備隊形を敷いた韓国2トップの斜め後ろに立ち、味方センターバックからのパスを引き出そうとしていた。

なでしこジャパン、韓国戦大勝も不安材料あり。パリ五輪と同じ問題発生【現地取材】

「良いチャレンジができた」

センターバックの南も試合後に筆者の取材に対応。筆者と同じく、GK山下やセンターバックからのロングパスに手応えを感じていたようだ。

ービルドアップの場面で心がけたことを教えてください。

「相手が[4-4-2](の守備隊形)で、予想していたものとは違ったんですけど、山さん(山下)と(熊谷)紗希さんと私の3人で相手の2トップを越えるイメージを話してから(共有してから)試合に入れました。それができた部分もありましたし、あえて縦パスを出さないで逆サイドから攻めるというのもできました。そこはトライとして良かったと思います」

ービルドアップの手応え(出来)は悪くないという印象でしょうか。

「山さんのロングキックがチームとしての武器で、そこからサイドの選手が(敵陣の)深いところを突けた場面もありました。相手を見ながら(出方を窺いながら)ボールを動かすという部分で良いチャレンジができたと思います」

ー韓国がパスの出し手にプレスをかけず、最終ラインも高めに設定されていたので、なでしこジャパンのロングパスが繋がりやすかった印象があります。
この点はいかがでしたか。


「そうですね。短いパスだけでなく、自分から都弥さんというように一列飛ばすパスが有効かなと、試合をしながら感じていました。紗希さんから(北川)ひかるへのパスも繋がっていたので、そこも良かったと思います」

ー南選手から見て、試合序盤の味方サイドバックの立ち位置はいかがでしたか。ビルドアップの面でやりやすかったでしょうか。

「自分からサイドバックへのパスが何回か引っかかってしまったんですけど、サイドバック(の問題)というよりかは自分が中にパスを通したり、ひとつ奥(一列奥)を見たりできればより良かったと思います。途中から自分の立ち位置をより内側にしたり、ボランチを使いながらボールを動かしたりできたので、今後も自分で立ち位置を変えながら、良いパスコース作りや良い配球ができればと思っています」

なでしこジャパン、韓国戦大勝も不安材料あり。パリ五輪と同じ問題発生【現地取材】

意地を見せたなでしこ

なでしこジャパンのボール支配が続いたなかで迎えた前半32分、長谷川のコーナーキックに北川がヘディングで合わせ、先制ゴールをゲット。この2分後にはセンターサークル付近でのフリーキックを素早く始め、敵陣左サイドから攻撃を仕掛けると、同サイドで北川がボールを奪う。その後FW田中美南がペナルティエリア左隅からラストパスを送り、このボールを藤野が相手ゴールへ押し込んだ。

瞬く間に2失点を喫した韓国陣営の集中は途切れ、この隙をなでしこジャパンが突く。迎えた前半37分、長野、長谷川、藤野の3人によるパスワークで韓国のセンターバックとボランチ間を攻略すると、長谷川のラストパスを韓国DFイ・シホがカットしきれず。このこぼれ球を拾った田中美南が相手GKキム・ミンジョンとの1対1を制し、なでしこジャパンに追加点をもたらした。


後半10分にもセンターバック南からサイドバック守屋へのロングパスが繋がり、なでしこジャパンが攻勢を強める。そしてこの直後、守屋の低弾道クロスに途中出場の19歳MF谷川萌々子が反応。ペナルティエリアへ走り込んでのワンタッチシュートで、試合の趨勢を決するゴールを挙げてみせた(得点は後半11分)。

攻撃が停滞する時間帯もあったなかで、粘り強く勝機を見出したなでしこジャパン。池田太前監督の後任が決まらず、日本サッカー協会女子委員長の佐々木則夫氏が監督代行を務める暫定的な体制でありながら、選手たちは最善を尽くした。新体制下での成長に期待したい。
編集部おすすめ