2026年5月26日から、東京・清澄白河の東京都現代美術館で「(UN)KNOWN HIROKO KOSHINO ―新説/真説 コシノヒロコ―」が開催されています。

“コシノヒロコ”という名前は、日本のファッション史においてすでによく知られた存在です。
しかし本展が提示しているのは、「著名デザイナーの回顧展」ではありません。むしろここで試みられているのは、あまりにも“known”になりすぎた存在を、もう一度“unknown”として読み直すことです。

“Known”でありながら、“Unknown”であり続ける─...の画像はこちら >>
photo by ©︎Yuya Furukawa

本展では、半世紀を超えるキャリアの中で生み出されてきたコレクション作品約200点と、絵画作品約130点を展示。 そこには単なる年代順のアーカイブではなく、「なぜその表現が生まれたのか」「それはいま、どのような意味を持ちうるのか」という視点が通底しています。

その意味で、本展は“過去を振り返る展覧会”というより、コシノヒロコという表現を、現代の感覚から再読する展示と言えるでしょう。

ファッションを“表現”へ押し広げた人
コシノヒロコが活動を始めた時代は、日本の戦後文化が急速に変化していた時代でもありました。

高度経済成長、女性像の変化、消費文化の成熟、メディアの拡張。そうした社会の変化と並走しながら、コシノヒロコは単に「服」を作っていたわけではありません。身体、色彩、グラフィック、空間、舞台、アート——それらを横断しながら、“人がどう存在するか”を問い続けてきた存在でした。

“Known”でありながら、“Unknown”であり続ける──コシノヒロコを、いま改めて見る理由
photo by ©︎Yuya Furukawa

展覧会冒頭には、ファッション作品に加え、墨絵、アクリル画、油彩、タペストリー、さらには歌舞伎座公演の舞台幕や長唄映像までが並びます。そこから見えてくるのは、ファッションデザイナーという枠だけでは捉えきれない、ひとりの“イメージメーカー”としての姿です。

服を描くのではなく、世界を描く。


その感覚が、会場全体に強く流れています。

日本的モダニティの中で
本展で特に印象的なのは、「交錯する美学 ― コシノヒロコと日本的モダニティ」と題された章です。ここでは、コシノヒロコの作品が、同時代の日本を代表する表現者たちと並置されます。

田中一光、石岡瑛子、倉俣史朗——。

それは単なる豪華な名前の列挙ではありません。戦後日本において、“日本らしさ”をいかにモダンへ接続するかという問いに挑んだ人々の系譜として、コシノヒロコを位置づけ直しているのです。

“Known”でありながら、“Unknown”であり続ける──コシノヒロコを、いま改めて見る理由
photo by ©︎Yuya Furukawa

鮮やかな色彩。大胆な構成。グラフィカルな線。余白の感覚。そこには、1970~80年代の日本デザインが世界から注目を集めた理由とも重なる感覚があります。そして興味深いのは、コシノヒロコの服が、単なる“日本的モチーフ”としてではなく、身体と空間を再構築する装置として存在していることです。


テキスタイルという身体感覚
コシノヒロコの創作を語るうえで欠かせないのが、テキスタイルです。本展では、ゼロから開発された生地やスケッチも紹介され、さらに一部の展示では、実際に服へ触れることもできます。

“Known”でありながら、“Unknown”であり続ける──コシノヒロコを、いま改めて見る理由
photo by ©︎Yuya Furukawa

見るだけではなく、触れる。その体験によって、テキスタイルが単なる“素材”ではなく、身体感覚そのものとして存在していることに気づかされます。

布の重さ、硬さ、しなやかさ、光沢。

コシノヒロコの服は、視覚だけで成立しているのではありません。身体が動いた瞬間に初めて完成する、“身体のための抽象表現”として存在しています。

“未来への恩返し”としての創作
展覧会終盤では、「ネクスト・クリエイション・プログラム こどもファッションプロジェクト」で子どもたちが制作した作品も展示されています。ここで印象的なのは、コシノヒロコが「未来」を、単なる次世代マーケットとして見ていないことです。むしろ、自らが受け取ってきた創造性や自由を、次の世代へ返していこうとする姿勢が感じられます。

“Known”でありながら、“Unknown”であり続ける──コシノヒロコを、いま改めて見る理由
photo by ©︎Yuya Furukawa

それは、長いキャリアを総括する回顧展というより、いまなお“創作が続いている”ことを示す展示でもありました。

コシノヒロコは、まだ“Unknown”である
展覧会タイトルにある「(UN)KNOWN」という言葉は、非常に示唆的です。
知られている。しかし、まだ知られていない。それは単に若い世代がコシノヒロコを知らない、という意味ではありません。むしろ私たちは、コシノヒロコを“知っているつもり”だったのかもしれません。

“Known”でありながら、“Unknown”であり続ける──コシノヒロコを、いま改めて見る理由
開幕セレモニーでライブドローイングを披露するコシノヒロコ氏 | photo by ©︎Yuya Furukawa

ファッションデザイナー。コシノ三姉妹。日本を代表する女性クリエイター。そうした既存イメージを一度解体した先で、本展は、コシノヒロコを「戦後日本の表現文化そのもの」として浮かび上がらせます。そしてその表現は、いま改めて見ても、驚くほど現代的です。

“Known”でありながら、“Unknown”であり続けること。

それこそが、コシノヒロコという存在の創造性なのかもしれません。

【INFORMATION】
(UN)KNOWN HIROKO KOSHINO ―新説/真説 コシノヒロコ―

会期:2026年5月26日(火)~7月26日(日)
会場:東京都現代美術館 企画展示室 B2F
(東京都江東区三好4-1-1)

開館時間:10:00~18:00
※展示室入場は閉館の30分前まで

休館日:月曜日(ただし7月20日は開館)、7月21日(火)

観覧料:
一般 2,200円/大学生・専門学校生・65歳以上 1,500円/中高校生 800円
ツインチケット(一般2枚)4,000円/小学生以下無料
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