(1) 電子素材事業
主に自動車、通信・家電機器市場を事業フィールドとして製品展開を行っている。磁石材料(フェライト、希土類)、誘電体材料(チタン酸バリウム)、LIB用材料、軟磁性材料を「戦略4事業」として位置づけている。
2023年3月期の製品別売上高では磁石材料が11,400百万円(セグメント内での構成比56%)と電子素材事業で最大の売上となっている。その中心はボンド磁石用のフェライト・希土類磁性コンパウンド(磁性粉末と樹脂を複合化した成形材料)である。ボンド磁石は高分子樹脂やゴムなどのバインダーにフェライト磁石や希土類磁石の微粒粉末を高充填した磁性コンパウンドから製造され、最近は希土類磁石コンパウンド材料の比率が高まっている。磁力面で焼結磁石に劣るものの、複雑形状加工成形、金属との一体成形、薄型化や長尺広幅化が可能という利点がある。「ハードフェライト・ソフトフェライト」、「等方性・異方性」、など、幅広い製品群を揃え、様々な産業で利用されている。
この数年で数量を大きく伸ばしてきたのがハイニッケルを中心とする車載用LIB用材料で5,800百万円(セグメント内での構成比29%、前期比では30%減)となっている。同社は磁気テープに代表される磁性酸化鉄市場の急激な市場縮小に対し、既存事業の技術を生かしLIB用正極材料の研究に着手、2000年にコバルト酸リチウム(LiCoO2)事業を開始した。その後、買収などで2002年にニッケルコバルトアルミン酸リチウム(LiNiCoAlO2)、2007年にNi(OH)2/CoOx、2008年にはスピネル型マンガン酸リチウム(LiMn2O4)を事業化、同時にArgonne National Labからリチウムリッチのニッケルコバルトマンガン酸リチウム(Li-Rich NCM)のライセンスを取得し、LIB用正極材料3成分系の事業化を迅速に行った。また米国ミシガン州に工場建設を始め、2010年に伊藤忠商事<8001>と前駆体・正極材料製造のJV、2015年には欧州化学大手BASFと日本を拠点にLIB用正極材料を展開するBASF戸田バッテリーマテリアルズ(同)(以下、BTBM)を立ち上げた。
2023年3月期の売上高は10億円と小さいが、今後の期待が大きいのがMLCC向け誘電体材料事業である。コンデンサーは3大受動部品の1つで、能動部品(供給された電気エネルギーを増幅、変換、整流などが可能)を正しく作動させるために必要不可欠な部品であるため、ほどんどの電子機器に使用されている。この中でセラミックコンデンサーは国内におけるコンデンサー生産額の8割近くを占める。現在、スマートフォン、自動車、家電など、あらゆる電子機器で利用され、2022年度は7,497億円の生産額を誇る。セラミックコンデンサーの主原料はチタン酸バリウムで、実用化で先陣を切ったのが村田製作所<6981>、その後、太陽誘電<6976>、TDK<6762>など日系企業が続いて基幹事業化に成功し、サムスンが2000年代に入り本格参入するまで日本企業の独断場であった。同社は2004年にチタン酸バリウムの製造設備を新設し、同分野へ本格参入したが、特徴はその製造方法にある。
(2) 機能性顔料事業
機能性顔料事業の2023年3月期売上高は14,723百万円(前期比8.6%増)となっている。主に塗料、複写機・プリンター、環境市場を事業フィールドとして製品展開を行っている。これまで塗料用顔料、複写機・プリンター向けトナー・キャリア用材料などを中心に拡大してきた。顔料は、創業以来の事業で、塗料市場では建築物や構造物向けの着色材料などで着実に用途が拡大しているものの、複写機・プリンター市場は、ペーパーレス化、電子化などの影響で成熟化している。ただし同社はシェア拡大に努め、化粧品顔料、透明酸化鉄など新製品群の拡大や環境市場向けの土壌・地下水浄化材などで補い、売上を確保してきた。利益面では原材料・エネルギー価格高騰の影響などで利益率の低下を余儀なくされてきたが、新型コロナ感染症拡大(以下、コロナ禍)による影響から回復してきた。
事業展開を最終用途別で示すと、5つの事業フィールドとなる。「環境」、「複写機・プリンター」、「塗料」が機能性顔料事業、「家電・通信機器」、「自動車」が電子素材事業にほぼ属している。2023年3月期では「自動車」が売上高12,300百万円(構成比35%と最大で)、次いで「塗料」8,600百万円(同25%)、「家電・通信機器」7,100百万円(同20%)の順となっている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 岡本 弘)