レビュー

資本主義を中心とする経済発展や思想の分類を「右/左」ではなく、「ロック/ルソー」という二大思想家の系譜で分類することを試みた、じつにユニークな本である。多くの読者は最初、大いに戸惑うだろう。

なんでいまさらロックなの、あるいはルソーなの、と。しかし戸惑いのなかで本書を読み進めるにつれて、この分類はじつに無理がなく、自然に腑に落ちていくことを実感するはずだ。著者の展開する分析手法に慣れてゆくにつれ、近代以降の経済社会の歩みを、納得感を持って整理できるようになるから不思議である。
とくに興味深いのは、「ロック的価値観とルソー的価値観は、ときに捻れを起こしつつも対立してきた」という構図が、第二次世界大戦後のある時期から崩れ、「同居」すらした時期を経つつ、「ネオ・リベラリズム」の登場から一気にふたたび複雑化した点である。これは現代の資本主義が、従来型の二項対立ではもはや解明できなくなっているという証左だ。
近年、世界各地ではさまざまな文脈で「分断」が顕著になり、自国第一主義が蔓延するなか、従来のような伝統的な思想をベースにした分析や解説は難しくなっている。これからの資本主義や経済社会は、以前にも増して不透明感が増していくと予想される。
「資本主義に出口はあるか」という本書のタイトルは挑戦的な問いかけだ。率直な読後感で返答するならば、「出口戦略など簡単に見つからない」という答えになる。そんななか、本書の提示するフレームワークは、この複雑な世界を理解するための糸口となるだろう。

本書の要点

・社会分析においては、従来「右/左」あるいは「保守/リベラル」という対概念が使われてきた。しかし「ロック/ルソー」という対立概念を用いた方が、現代社会の本質はつかみやすい。


・近代以降、さまざまな捻れを伴いながらも、「ロック/ルソー」の対立軸で世界を分析できた。だが第二次大戦後、様相は一変する。戦後民主主義では、「ロックとルソーの同居」ともいうべき相互補完が見られた。
・高度経済成長の終焉に伴い、「ネオ・リベラリズム」が台頭。「保守/リベラル」の関係を、一段と複雑化させた。



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