レビュー

親子はこうあるべきだと主張する考え方には様々なものがある。しかし、親子、家族といえども、1人の人間と人間が向き合う関係であることには変わりない。

1人ひとりの人間のあり方が違うならば、それぞれの人間との結びつき方も変わるはずだ。だから、親子関係の絶対の真理となる唯一の「正解」などない。
本書において父親・内田樹と娘・内田るんは、往復書簡を重ねる中で、手探りで親子関係の「正解」を探していく。しかし、どうやらそのようなものはないらしいことに気づく。そもそも、人間は自分で自分のことを完全にわかっているわけではない。他の人から言われて気づく自分の姿もある。
父と娘は往復書簡という形でつづられるお互いの言葉から、自分では気づかなかった自分自身の姿を見つけていく。父にとっての娘、娘にとっての父という「他者」との対話を通して、今まで知らなかった娘の、父親の思いに気づかされることもたくさんあったようだ。
本書でも述べられているように、親子関係は完璧でなくても良いし、理解できない部分や考えが違う部分もある。それを前提とするくらいの方が、ちょうど良い親子関係を築けるのかもしれない。問題があっても、失敗しても、それも含めて受け入れていくような向き合い方を、親として、子として、考えていけるようになるのではないだろうか。
そして、それはすべての他者に開いてゆくことのできる視点である。

本書の要点

・どんなに親しい間柄でも100%の理解、共感が成り立つことはあり得ない。家族の間に秘密があるのも当たり前だ。「家族は心の底から理解し共感し合うべきだ」という前提から話を始めるよりも、家族関係の合格点を低めに設定しておくくらいがちょうどいい。
・家族でも、友人関係でも、「共感できないけれど、一緒にいて楽しい」という方が人間同士のかかわりとしてはずっと自然だし、居心地が良い。
・緊密な家庭内合意形成の必要はなく、1人ひとりがどんなことを考えていてもいい。理解も共感もなくても、人は支え合うことができる。



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