レビュー

本書は、ソ連崩壊やリーマン・ショック、イギリスのEU離脱など、数々の歴史的事件を予見してきた歴史人口学の泰斗が、初めて自らの思考を分解し理論化しようと試みた解説書である。著者は執筆の方向性が定まるにつれ、自らの思考法を語るのが楽しくなってきたという。

その言葉通り、本書の随所に著者の人間らしい一面がのぞくエピソードがちりばめられており、飽きさせない構成になっている。特に、思考を促すうえで「SFを読み、想像の世界へ行きなさい」「恋愛面で危機にあるときほど研究に邁進しなさい」と助言するくだりは味わい深い。いずれも自身の経験に裏打ちされており、読み応えと納得感がある。
「私は学ぶことが大好きです」「学ぶ喜びこそ人生の本質」と言い切る潔さも痛快だ。仕事の95%は読書だそうで、本の虫という言葉では言い尽くせぬ学究肌ぶりが終始貫かれている。半世紀近く研究を続け、時に社会の激しい批判を浴びながらも、衰えぬ向学心は敬服に値する。
学びへのほとばしる情熱で書き進められた本書は、知的活動を「入力→思考→出力」の3フェーズに分け、章立ても概ねその流れに沿っている。人並外れた思考ゆえに、その回路は複雑であるが、安心してほしい。知的活動の各要素を示した「思考の見取り図」が用意されており、それが理解の助けになってくれる。
適切なデータを収集、分析していけば、将来を見通すことは決して不可能ではない――。著者のこうした力強いメッセージは、読後にいっそう実感を伴って受け止められることだろう。現代最高の知性が明かす思考地図をお楽しみいただきたい。

本書の要点

・あらゆる知的活動は「入力→思考→出力」から成る。なかでも思考は自然発生的な「思いつき」や「気づき」といった着想である。思考する前にまず広く文献やデータを読み、膨大な知識を脳内に蓄積する「入力」が最も大切だ。
・知識を蓄積していくと、突然アイデアが湧く「発見」に至る。それが驚くべき数字やデータであっても、思考から排除すべきでない。新たな分野を切り開く端緒と捉えるべきだ。
・発見した成果を社会に発信すると時に批判を呼ぶが、批判を恐れてはならない。批判は社会の本質を突いた何よりの証である。



フライヤーでは、話題のビジネス・リベラルアーツの書籍を中心に毎日1冊、10分で読める要約を提供(年間365冊)しています。既に2,100タイトル以上の要約を公開中です。exciteニュースでは、「要約」の前の「レビュー」部分を掲載しています。

編集部おすすめ