レビュー

「資本主義は限界にきている。新たなシステムへの移行が必要だ」。

こんな言説はすっかり耳慣れたものになった。たしかに、資本主義には多くの問題がある。しかし、システムの移行は本当に可能なのだろうか。本書は、脱資本主義的な言論に疑問を投げかけ、少し違った視点から資本主義をとらえようとしている。
資本主義というと、巨大なシステムが思い浮かぶが、本書は「人々の中に根づく資本主義」に焦点を当てる。たとえば、試験勉強のために遊びを我慢することや、子どもの教育費を貯めるために節約することは、どちらも資本主義的な行為だというのだ。
先の利益のために今我慢をする。こんな当たり前に思えるような考え方は、資本主義と深く結びついている。
本書は2部構成だ。第1部では資本主義がこれまで開拓してきたフロンティアの消滅という観点から、資本主義を紐解く。第2部ではアイデア自体が価値を持つ、アイデア資本主義について論じ、資本主義のこれからを考える。文化人類学を専攻する著者は、その専門性を存分に活かし、資本主義という現象を個々の人間のミクロな振る舞いの総合的な表出としてとらえている。
その感覚が理解できたとき、自分の中に根づいている資本主義にも気づくことだろう。
現在の社会のあり方に疑問を抱いている方には、迷わず本書を手にとっていただきたい。きっと、資本主義を見つめ直し、社会や自分の将来について考えるきっかけになるはずだ。

本書の要点

・資本主義は「将来のより多い富のために現在の消費を抑制し投資しようとする心的傾向」と定義でき、その行為には「計算可能性」と「直線的な時間感覚」の2つの条件が必要だ。
・モノ余り・カネ余りの現代、「空間」「時間」「生産=消費」という伝統的なフロンティアは消滅した。
・次なるフロンティアとして注目されているのがアイデアだ。

アイデア資本主義では、アイデアそのものが投資対象となる。
・私たちが日常的に、将来を真剣に思ってする行為の中に資本主義の本質があり、簡単に外すことはできない。それよりも、資本主義の正負の両面を見て改良していくことの方が建設的だ。



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