レビュー

アリストテレスの『ニコマコス倫理学』は、幸福について考えるきっかけを与える書だ。アリストテレスは、それ自体が目的であるような活動を善とし、最高善を幸福としている。

さらに、卓越性(徳)に基づく最も善き活動こそ完全な幸福であり、過不足のない中庸を目指すことを理想としている。
現代は経済が幸福の基準として大きな比重を占めるようになった。ひとの際限のない欲望を満たすことが幸福につながると考えられ、手段となるお金に多くの価値を見出すようになった。市場ではすべての労働に値がつき、それによって人間の価値が決まるという価値観も現れた。勝ち組・負け組という言葉に象徴されるように、他人に勝つことで幸福を見出そうとすることもある。
経済が幸福についての重要な尺度となっていることに異論はないだろう。
しかし、他愛もないおしゃべりをしたり、趣味に没頭したりすることにも、幸福を感じることはないだろうか。
富そのものは善ではなく、何かのために役に立つ手段でしかないと、アリストテレスは述べる。
過去と比べれば、現代は物質的に豊かな時代と言えよう。一方で、生きづらさを感じることもある。善や幸福を考えるとき、経済以外の価値観を未だ見出せていないからなのかもしれない。
お金で実現できる豊かさのみが幸福なのか。
お金がないと幸福にはなれないのか。経済的に成功することだけが善きことなのか。本書は読者に問いかける。善きこととは何か。幸福とは何か。読者に生きることそのものを問うているのだ。

本書の要点

・人間のいかなる活動も善を求める。活動には、それ自体が目的であるものも、活動とは別に何らかの成果が目的である場合もある。すべての活動の目的を包括するような目的のほうがより望ましい。それが「善」であり、「最高善」だ。
・人間の卓越性に即した魂の活動が「善」であり、「幸福」だ。
・倫理的卓越性は、中庸を目指すものでなくてはならない。


・われわれの行為は選択に基づく。その実践の目的は「立派にやるということ」であり、欲求もこれを目指している。



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