レビュー

大人が担うようなケア責任を引き受けている「ヤングケアラー」。言葉自体は広く知られるようになったが、その実態についてはよく知らない、何が問題なのかわからないという人はまだまだ少なくないだろう。


本書は、調査にもとづいて「ヤングケアラーってなんだろう」を考えていく。本書に登場するヤングケアラーが担う「ケア」は、「お手伝い」とは異質である。家族のケアのために同年代と同じような生活をあきらめ、自分の望みをもつことすらできない子どもがいるのである。それは特別な事情のある少数の家庭だけだと思うかもしれない。ところが、厚生労働省のヤングケアラー実態調査によれば、家族の世話をしている中学2年生は17人に1人、全日制高校2年生は24人に1人にのぼる。クラスに1・2人はヤングケアラーがいてもおかしくない。
そんなヤングケアラーはなぜ生まれるのか。本書はその理由を社会構造の変化に問う。今の日本の福祉制度は高度経済成長期の経済的に余裕のある時期に、ケアの担い手が家庭にいることを前提に設計されている。共働きが一般的になった今でも、性別役割分業に支えられていた時期の男性のような働き方が多くの人に求められているのである。家庭や家族のことは後回しにされ、子どもや若者はそのしわ寄せに苦しんでいるとも考えられる。
ヤングケアラーを家庭の問題として見て見ぬふりすることはできない。
社会全体に「家のこと」を計算に入れた働き方、ケアをする人をケアをするという視点の実現が求められているのである。

本書の要点

・現在の日本の福祉制度は、経済的に余裕があった時代に、ケアを担う余力のある人が家庭にいるという前提のもとに作られている。働き手が減った現在では、家のことをやる人手も労力も足りなくなり、子どもや若者にまでそのしわ寄せがきている。
・年齢にそぐわない責任を負って家族のケアを担っている「ヤングケアラー」は、自覚がないことも多く、周囲に相談できないまま、自分のことや進路のことをあきらめている場合がある。
・ヤングケアラーの支援体制は整えられつつあるが、実態にそったさらなる取り組みが必要とされる。



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