レビュー

「何回説明しても伝わらない」という経験は誰にでもあるはずだ。どうしてこんなにわかりやすく説明したのに伝わらないんだろうと思ったときに、私たちは自分の「伝え方」を見直そうとする。

そこには、「ちゃんと話せばわかり合える」という前提がある。
ところが、本書はそもそも「話せばわかる」は幻想ではないかと指摘する。コミュニケーションをとるとき、人は自分の頭の中にある「当たり前」を用いて解釈する。人それぞれ異なる「当たり前」を通して解釈しているからこそ、その「当たり前」が乗り越えられなかったとき、「伝えたいことが伝わらない」という事態が起こる。
こうしたコミュニケーションの困りごとを、本書の著者である今井むつみ教授は、認知科学と心理学の視点から考え、解決策を提示する。コミュニケーションは様々な認知の力に支えられている。だからこそ、人間の認知の特徴を知ることが、「伝わらない」を乗り越えて、いいコミュニケーションをとるために必要だというのだ。
本書を読むと、私たちが普段いかに世界を都合よく解釈しているかがわかる。見ていないものを「見た」と記憶してしまったり、やったことをすっかり忘れていたり、聞きたくない話は耳に入らなかったりと、これでは「何回説明しても伝わらない」のが当然だと思えてくるほどだ。
それでもなお、伝えることを諦めないためにはどうしたらよいか。本書を片手に「心の読み方」を考えることが、その第一歩になるかもしれない。

本書の要点

・「話せばわかる」とよく言われるが、それぞれの人が自分独自の「知識や思考の枠組み(スキーマ)」を持っている以上、そのスキーマに沿って独自に解釈されている可能性は否定できない。


・私たちには先入観や思いこみを生み出す「認知バイアス」と呼ばれる認知の傾向がある。偏ったものの見方で判断を下していると、異なる立場からの情報や論理破綻の指摘があっても、判断が覆らない場合がある。
・真に相手の立場に立って物事を伝えるためには、「心の理論」と「メタ認知」という視点が重要となる。



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