レビュー

はじめはどんなに斬新なサービス、商品、経営手法であったとしても、これだけ情報流通の速い現代では、あらゆることがそれほど時を置かずして陳腐化し、レッドオーシャンに変わり、コモディティ化してしまう。しかしそれでも、競合たちから一歩も二歩も抜き出て、長期利益を上げつづけている企業は存在する。

その利益の源泉となっているものは、論理は何なのだろうか。
『ストーリーとしての競争戦略』の著者として知られる楠木建氏は、この問題について長年にわたり研究し、思考を重ねてきた競争戦略の第一人者だ。その数多の論考から厳選し、戦略論と経営論の本質的な論議をまとめたのが本書である。
「利益を出し納税する」ことは「企業の社会貢献の本筋」であると著者が書くように、何よりも利益を出しつづけることが大事であるし、それがそのまま社会貢献につながることを忘れてはならない。長期利益は従業員に適切に分配され、株主を満足させ、公共の福祉に向けた原資となる。
そしてこの長期利益は、経営者個人の「好き嫌い」という至極局所的な価値基準からはじまる。「好き」を尋常ならざる思いで突き詰めることにより、それによって儲けつづけるためのストーリーが練りあげられる。そこから生まれる個別の経営戦略には、他社から見ると非合理に見えるものも少なくない。だからこそ、よくできたストーリーはそれ自体が競争優位性をもつのである。
著者の論理は非常に明快だ。どの切り口にもブレがない。その「ストーリー」を、ぜひ味わっていただきたい。

本書の要点

・「目先の小さな損得に流れず、将来に向けた戦略ストーリーを構想し、攻めの投資に踏み切れるか」。これをドライブできる経営者にいま、注目が集まっている。
・著者の研究において「痺れるほど面白い」と感じた戦略を示す企業のひとつとして挙げられているのが、アイリスオーヤマである。
・「概念と対概念をセットで考える」ことが大切だ。
・長期利益を真剣に突き詰めることで、ESGやSDGsを結果的に満足させられるのが最善の道であろう。



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