文 結城康平
エメリク・ラポルトは、ポジショナルプレーの伝道師ペップ・グアルディオラの下へやってきてから世界中のフットボールファンを唸らせてきた。昨季はマンチェスター・シティの国内3冠達成に大きく貢献し、今季も開幕から活躍。

現代的なCBとして攻守にわたりシティを支えていたラポルトだが、プレミアリーグ第4節ブライトン戦で負傷し長期離脱が決定。その後シティはリーグ戦で不調に陥りフランス代表DFの不在が浮き彫りとなっている
「足下の技術に優れ、正確なパスを供給できる左利きのDF」。このようにラポルトはシンプルに紹介されることが多い。ただ、それだけで紹介を終えてしまうにはあまりにも惜しい左CBだ。特筆すべきはシティの強力な攻撃陣に供給される縦パス、いわば「楔」(くさび)の高い精度。右からボールを受けると191cmの長身を伸ばし、視線と体を左サイドへ向けて敵に「横」への展開を意識させながら鋭いパスで「縦」を射抜く。その迷いない決断力も他のCBとは一線を画しており、敵のプレッシャーにも動じない。むしろ、ボールを奪おうと前に出てきた相手選手が手放した背後のスペースを狙う形を得意としているほどだ。
楔を警戒した相手がスペースを埋めてくれば、ボールを運んでいくことも可能だ。
さらに、左足から矢のようなロングパスを飛ばすことができる彼は、「縦」だけでなく「横」への展開でも違いを作り出す。左SBオレクサンドル・ジンチェンコとのパス交換で相手を揺さぶりながら楔を狙いつつ、機を見て逆サイドのウイングの足下にピタリと合わせる対角線のサイドチェンジで一気に大外へ展開する。パスを1本1本丁寧に繋ぐシティのビルドアップを転調させる最終ラインの指揮者として、ラポルトは真価を発揮していた。
守備でも成長し、失点減に貢献
守備面においても成長は著しかった。シティ加入当初は不安定なパフォーマンスを指摘されていたが、徐々にイングランド特有の高いインテンシティに適応。前への潰しではオタメンディに劣るものの、昨季一時的に左SBを務めたようにサイドのカバーリングは得意だ。シティでは“偽SB”として左SBが内側に入っていくこともありその背後を狙われやすいが、素早く首を振って状況を読み取りながら裏のスペースをケアし、冷静に相手の攻撃をタッチラインへ追い詰める守りで批判を黙らせている。英『BBC』によると、ストーンズ&オタメンディがペアを組んだプレミアリーグの試合における平均失点数は1なのに対し、ラポルト&ストーンズまたはオタメンディの場合は0.6。

ラポルトの守備における安定感も数字にはっきりと表れている
ラポルトのケガによって、シティは局面を一気に進める縦と横への展開力を失った。代役としてフェルナンジーニョをCBに起用しているが、ラポルトの抜けた穴を埋められているとは言いがたい。正念場を迎えている名将はどんな手を打つのか。その采配から目が離せない。
Photos: Takahiro Fujii, Getty Images