【死ぬまでにやりたいこれだけのこと】
川上麻衣子さん(俳優/59歳)
スウェーデン生まれの川上麻衣子さんは俳優のかたわら保護猫の活動やガラスデザイナーとして多忙な日々。やりたいことは落語から母国語の習得まで幅広い。
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死ぬまでにやりたいことのひとつは落語を一席覚えること。以前からやってみたかったのです。
昔は女性の落語家さんが少なかったですよね。2012年に亡くなられた新藤兼人監督と「女優さんに落語ができるかどうか」を話し合ったことがあったんです。監督は「無理です」と即答。理由は「女優さんは高座に上がった瞬間に笑う対象ではないから」と。それを聞いて私は「落語家さんは登場した瞬間に笑っていいという雰囲気を出さなきゃいけないから、女優には難しいかな」と思いました。
新藤監督がこの女優さんなら落語を聴いてみたいと唯一思ったのは杉村春子さんらしくて。江戸弁が達者ですし、笑っていい雰囲気も持っていますものね。監督は杉村さんの大ファンで、憧れの意味もあったんでしょう。今は女性の落語家さんも増えて、演目も女性版の「芝浜」をやっていらっしゃる方もいますから、落語を見に行くたびに「私もやってみたい」と思うんです。もしトライするとしたら大ネタはハードルが高い。
以前から保護猫に関する活動や「人と猫の共生がテーマ」の講演をやっています。私はもうすぐ還暦になるんですが、還暦は保護猫が欲しい人にとってキーポイントになっていて、60歳になると猫を譲ってもらえないケースがあるんですよ。今、猫は20年くらい生きますから、60歳で子猫を引き取ると80歳まで面倒を見なきゃいけないので。だから、私は還暦過ぎても猫といられるような社会になってほしいと思うんです。
高齢者の趣味嗜好に特化したシェアハウスがあってもいいのでは
そこで考えたのが、猫がいるシェアハウスをつくること。まだ夢ですけど、理想としては1、2階が住居で3、4階が吹き抜けの猫部屋。そこに保護猫がいて面倒を見るスタッフが働いている。住む高齢者は猫と遊べて、元気ならスタッフのお手伝いをしてもらって。猫と暮らせる猫好き高齢者のシェアハウスです。
私個人ではできないので、私のアイデアを実現してくれる方なり会社が必要ですよね。このインタビューを読んでくれて実現させたいと思ってくれる方がいましたら、夢では終わりませんからね。
それに猫と暮らせるシェアハウスって、この先ありそうでしょ(笑)。私は今後、高齢者の趣味嗜好に特化したいろんなシェアハウスができていいんじゃないかと思うんです。今は70歳でも元気な方が多い半面、1人暮らしも多いから、みんなで共通の好きなものをシェアできる住宅。
もう物は持ちたくないから部屋は狭くてもいいと思うんです。その分広いシェアルームに好きなものがある。例えばレコード好きな人ばかりが住むシェアハウスにみんながレコードを持ち寄ってシェアルームに置くとか。自分一人でレコードを所持するのがつらくなってきますしね。世の中だんだんそういうふうになる気もします。
他にはスウェーデン語を取り戻したいです。
今、東京の千駄木でスウェーデンの小物やインテリアを売る店をやっていて、スウェーデンの方が買いに来てくれるんです。谷根千エリアと呼ばれている場所がヨーロッパからの観光が多くて。観光なので日本語は話せませんから、みなさん英語やフランス語など母国語で聞いてくる。私は「これはスウェーデン語だな」とわかるので、私が「スウェーデンから来られたんですね」と聞き返すと、みなさんビックリして喜んでくださるんです。
私はヒアリングはできるものの、ほとんどしゃべれなくなっていて、歯がゆい。スウェーデン語は脳のどこかに残っていそうなので、もう一度しゃべれるようになって仕事の接客に生かしたいですね。
お店には私の作ったグラスなどもあります。吹きガラスをやっているんですが、死ぬまでにはワイングラスを完成させたい。普通のグラスやお皿は作れますが、繊細な作りのワイングラスは何ステップも上の難易度ですから。職人さんが作る足の細い美しいものは無理だとしても、傾かないワイングラスを(笑)。
2005年から2年に1度、ガラスデザインの個展を続けているので、ワイングラスも発表できたらと思います。最後に。直近では、来年は私が還暦でインテリアデザイナーの母(川上玲子)が88歳なので、展示会とパーティーができればと思います。やりたいことが多すぎるかな(笑)。
(聞き手=松野大介)
▽川上麻衣子(かわかみ・まいこ) 1966年、スウェーデン・ストックホルム生まれ。1歳で帰国。9歳から1年間スウェーデン在住。80年に芸能界デビュー。「3年B組金八先生」第2シーズンで注目され、ドラマやバラエティーで人気に。現在は一般社団法人「ねこと今日」代表理事。小物やグラスなどを扱う「SWEDEN GRACE」を経営。