【死ぬまでにやりたいこれだけのこと】


 ラッシャー板前さん
 (タレント/62歳)


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 たけし軍団のメンバーとして知られるラッシャー板前さん。軍団時代は数々の危険なパフォーマンスにチャレンジし、2022年までレギュラー出演した「朝だ!生です旅サラダ」(テレビ朝日系)では全国各地から現地リポートするなど、体験記では芸能界広しといえど、右に出る者がない。

これからやりたいことは何だろうか。


「まさか自分が講演会をやるなんて、思ってもなかったですよ」


 こう照れ笑いするところからインタビューはスタートした。芸能生活42年にして初めて今年2月、広島のお寺で講演会を行った。集まったのはお寺の檀家、約100人。


「好きなことを話してくださいと言われたので弟子入り前の話とか、たけし軍団のこと、あとはロケで印象に残っている場所などについて30分くらい話をしました」


 例えば、長野県駒ケ根市にある千畳敷カールのロケ。


「標高は2000メートルくらいあって春夏秋冬、違う季節に行くと、景色がまったく違う。氷河期に形成された窪地で、駒ケ根の町並みが一望できるのはもちろん、星がめちゃくちゃきれいで流れ星がビューンビューンと見えるんですよ。星に願いをじゃないけど、『金が欲しい!』なんて叫んだ話をしたら、みなさん大笑いでした(笑)」


 講演も大盛況に終わり、「自分が旅行に行った気分になることができた、なんてみなさん喜んでくれた。そして、僕にはこれまで話したことがなくて、誰も知らないことがまだまだいっぱいあると教えられた気がしました。これからやっていくならこれだ! と確信しました」。


 では、実際にどんなネタがあるのか。具体的に聞いたら、抱腹絶倒の面白い話、危険な話が次から次に……。


「怖い体験は山ほどあります。今、全国でクマ騒動が起きているけど、僕もクマに噛まれた経験があるんです。秋田県のクマ牧場で『子グマが出た』というんで現場に行ったら、本番中にガブッと。血が出るし、痛いし。でも、何ごともなかったかのようにロケを続け、どうにか乗り切りましたけど」


「伊豆、熱川のワニ園でのこともよく覚えています。番組は『ビートたけしのお笑いウルトラクイズ』(日本テレビ系)。僕らはボードに腹ばいになって出題される問題に答える。正解じゃないとボードをどんどんワニに近づけられる。僕は最初の怖がる役、トップバッターをやらされたのですが、後からボードに乗った桜金造さんがワニの口に突き刺さってしまった。ワニはもちろん大暴れ、危険極まりないし、動物園のスタッフが『帰ってくれ!』と激怒しちゃって(笑)」


 土佐犬と闘ったことも。これも命懸けだった。


「『犬玉なで祭り』という犬の玉をなでると幸せになれるっておバカな企画です。

僕が触ったのは闘犬用の土佐犬。土佐犬は人を襲わないようにしつけられてるけど、その時は発情した土佐犬に僕と井手らっきょが後ろから襲われた。噛みつかれることはなかったですよ。でも、僕の目の前には土佐犬のナニがあって……。もう恐怖でしたね」



地吹雪に遭遇して視界ゼロの恐怖も

 自然の恐怖を実感したロケもあった。


「青森県の浅虫温泉の奥にある湖まで行って、白鳥にエサやりする企画でした。その途中で地吹雪に遭遇。視界ゼロ。右も左も真っ白で何も見えない。ホワイトアウトです。地吹雪がやむまで車で待機し、やんだらちょっと動き……。またふぶいたらすぐ止まって待つ。

後続車は前の車が見えなくて、ドンとオカマを掘られるんじゃないかなんて考えたり。ヒヤヒヤもんでしたよ」


 海に車ごとダイブするロケにも挑戦した。


「車ごと、海にバーン!って突っ込んで、そこから脱出する企画です。しかも、『すぐ出てこないで3分くらい海の中にいてください』なんて、めちゃくちゃ。もちろん空気タンクを使うわけだけど、スキューバダイビングはやったことがない、初体験です。練習では息ができたけど、ダイブして水が入ってきたら、もうパニックです。全然、呼吸ができない」


 現場は沖縄の海。車はたった1台。一度終わると、クレーンで車を引き上げ、水を抜いてまたダイブする。それを何度か繰り返した。


 それでも、どうにかこなすことができたのはスタントマンが5、6人乗り込み、海に突っ込んだ瞬間に「3人くらいが俺の体にタッチして支えてくれたから」だという。


「あっ、俺は守られてるって思って、最後は落ち着いてやれたので、どうにか乗り切ることができました。

俳優の小林旭さんも何度も挑戦したけど、一度も成功しなかったと言ってました。『これをできる人はなかなかいません』と言われてアクションタレントとして自信になりました(笑)」


 人生でもっとも肝を冷やしたのはオーストラリアで体験したタイガーモスという戦前の軍用訓練機のアクロバット飛行だという。パイロットが上下に回転したり、急降下したりを繰り返す、あれだ。ラッシャーは気を失いかけた。


「パイロットはオーストラリア人のTシャツに短パン、ビーチサンダルのおっさん。こんなんでやれるの? と、まずビビった。僕は前の席に乗せられました。いきなりの急上昇から宙返りし、それから逆さまになって、まるで木の葉みたいに落ちて行く。急上昇の後、いきなりエンジンを止めたりもするんですよ。その瞬間、俺はこのまま墜落して死ぬのかと思いました。でも、彼は笑いながら、『サービス! サービス!』なんて笑っていて。しかも、それがいつ終わるのかわからない。

もう二度とやりたくないですね(笑)」


 そんな命懸けの体験をしたのに、カメラマンも恐怖のあまり撮影していなかったというオマケ付き。この時の貴重な映像は残っていない。


 スカイダイビングも経験している。


「上空4000メートルって聞くと怖そうって思うでしょ? でも、高い方が楽なんです。むしろ2000メートルくらいの方がパラシュートを開くための余裕がないから緊張する。インストラクターも『4000メートルは安心』と言っていました」


 ただし、バンジージャンプだけはオファーがあってもずっと断り続けた。「あれだけはやりたくない」と言う。だが、一度だけ渋々、オファーを受けたことも。苦い経験だ。


「『やらなくても大丈夫』と言われてたんです。それでも、とりあえず上までは行ってみるかと。でも、結局、やらなかった。

そうしたら現場の空気が最悪で……。その後の僕は居場所がなかったですね。それ以来、無理なものは最初から断ると決めました」


 そんな話のネタは尽きないから、講演会はいつでもOK。「これからはどんどんやっていきたい。講演会で全国を行脚するのが目標ですね」


 日本中知らないところがないが、一つだけかなえたいこと、場所がある。


「あえて『死ぬまでにやりたいこと』と言われたら、オーロラを見てみたいんですね。実はオーロラは南極とかアラスカとか行かないと、見られないものだとずっと思っていました。でも、最近ニュースで『北海道でオーロラが観測された』と知って、びっくり。足寄郡陸別町というところがオーロラの発生確率が高いらしい。陸別町は日本一寒い場所って言われてるみたいですけど、まだ行ったことがないんですよ。うちのカミさんは寒いのが苦手だから、娘、息子と一緒に行くのもいいかなって思ってます」


 オーロラを見ることができるかどうかは気候条件などに大きく左右される。行けば必ず見ることができるわけではない。


「泊まり込んでも運が悪ければ見ることができないかもしれない。やっぱりタイミングでしょうね。陸別町にはこの日は見えやすいといったデータがあるはずです。いつ頃がチャンスなのか調べて、今からオーロラ観賞の計画を立てる予定です。テレビもぜひ、同行して撮影してほしいと思います」


(聞き手=浦上優)


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